此岸の光景2


此岸の光景 その2

アナフィラキシー


          岩田 強




 25年ほどまえ、52歳のとき、耳鳴りの検査のためにMRIスキャンをうけ、造影剤プロハンス(ガドリニウム含有)の静脈注射でアナフィラキシーをおこしたことがある。血圧低下、呼吸困難、尿道狭窄、失禁、意識喪失に同時におそわれたのである。アナフィラキシーとはどんなものか、知らない人が多いだろうから、参考までに、当時つけていた日記からその部分を抜きだしてみる。


 右腕に造影剤(プロハンス)を注射されて1分足らず、可動ベッドがMRIの筒のなかに戻っていく最中に、クシャミが2度、つづいて舌が硬わばり、喉もおかしくなる。

 「気分がおかしい!」

 「深呼吸してください」

 「いや、おかしい。出してください!」

 引き出されたときには、もう胸苦しかった。

 「先生を呼んでください」

 「ここにいます」 眼鏡なしでみて看護師さんと思ったが、お医者さんだったのか。

 「ベッドに移れますか」と聞かれたが、返事もできない。

 敷布ごとMRIのベッドから隣のベッドに移されたようだ。あとで聞くと、血管が収縮しないうちに、その場で左腕に点滴用の針をいれたそうだ (担当医談)

 それから別の階の救急治療室に搬送されたが、その様子を映画の場面を見ているように眺めている-----飛んでいく廊下や天井をベッドのうえから見上げているが、それと同時に、そうやって運ばれていく自分を外からも見てもいるような解離の感覚があった。

 救急治療室は、天井の電灯が中央に大きなもの、それをとり囲むように小さな長方形の照明が5、6個、それも左側だけに見えた。苦しみはさらに増して、じっと上を向いてベッドに横になっていられない。身をよじってもがく。それより前だったか後だったか、パンツを切り裂かれるのを感じた。たぶん救急治療室へ運ばれる前だったとおもうが、失禁した感じがあった。(中略)ベッドから見上げると、5、6個の人の頭がボクを見おろし、その上にまばゆい電灯がともり、その下でボクが虫けらのように蠢いている。みんな助けたがっているのに、どうすることもできない。その瞬間、死ぬってのはこんなものだろうな、とおもった。胸の苦しさはどんどん悪化していくのに、みんな手を拱いているばかり。たれがそばにいてくれても、人はこんな風にひとりでもがいて死ぬんだな、とその時そのとおりのコトバで考えた。それから15分~30分ほど意識が途絶えたらしい。つぎに覚えているのは、「どうやら考えにまとまりがついてきたな」と考えたこと(考えた内容は覚えていない)だが、その時が意識のもどったときだったらしい。苦しみはだいぶ薄らいでいた。


 以上がショック症状の絶頂期で、発現からここまで1時間ほどだったろうか。以後、血中酸素濃度がなかなか正常にもどらなかったり、鼠径部の点滴針周辺から出血があって重い砂嚢で止血しなければならなかったなどのトラブルはあったが、症状はしだいに収まって遅発発作もでず入院5日目に退院できた。

 大病院だったので、50を切った血圧の保持、酸素吸入器の装着、尿管にドレーンを挿入して尿道を確保する処置、家族への連絡など必要な処置を的確迅速にやってもらえて助かった。設備のない小さな医院だったらどうなっていただろう。

 けれども、病院にたいして割りきれない思いがしたのも事実だ。放射線科、耳鼻科、脳外科、麻酔科などさまざまな医師が診てくれたけれども、こんなショック症状をひきおこして済まなかったといってくれた医師は-----当然かもしれないが-----ひとりもいなかった。ボクは造影剤の危険についてなんの説明もうけなかったし、インフォームドコンセントも求められなかった。胃の透視撮影の前にバリウムを飲むぐらいの軽い気持ちで造影剤の注射をうけて不意にぶっ倒れたのだから、無過失で交通事故にまきこまれたような気分だったが、主治医は「このようなショック症状は世界で2例目です」とか「100万人に1人の確率だといわれています」といっただけだった。それほど低い確率では予測できなくて当然ということだろうか。「アナフィラキシーをおこしても医者は責任をとってくれないな。法に訴えても、〈想定外〉で片づけられるだろう。アナフィラキシーからは自分で自分を守るしかないのだ」とボクは感じた。

 以来、なんであれ血管に異物を入れることには慎重になったし、交通事故などにあって意識不明で担ぎこまれたときの用心に、担当してくれた医師に「平成8年1月26日、MRI造影剤プロハンスによりショック症状が出現する。○○病院」という証明書(?)を書いてもらって、つねに財布に入れて持ち歩いている。

  また、アナフィラキシーに関する情報は気づくかぎり目を通すようになった。25年前は新聞、雑誌、テレビが主な情報源だったが、最近はなによりもインターネットだ。ときには外国のサイトも閲覧する。国柄の違いがわかっておもしろい。たとえば、「厚労省、ガドリニウム、アナフィラキシー」というキーワードをyahoo.co.jpにいれて検索してみる。すると、厚労省のものとして最初に出てくるのは、「ガドリニウム造影剤の添付文書」

https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000183973.pdf

という文書だ。29ページもあるが、すべて製薬会社が自社のガドリニウム造影剤製品につけた添付文書を集めたものだ。どれも大同小異だから、例として最初に載っている第一三共の「副作用」の項目を見ると、「(1)重大な副作用(頻度不明注)」という見出しの下に、「1)ショック、アナフィラキシー様症状:ショックを起こし、呼吸困難、意識消失、顔面蒼白等の症状があらわれることがある。また、呼吸困難、咽・喉頭浮腫、 顔面浮腫等のアナフィラキシー様症状があらわれることがあるので、投与後も観察を十分に行い、異常が認められた場合には適切な処置を行うこと。」

 最後の文が端的に示しているように、これはあきらかに医療従事者向けの内容で、ボクが知りたいショック出現の頻度については「頻度不明注)」と素っ気ない。細字の印刷のなかから苦労して「注)」を探し出して読んでみると、「自発報告又は海外において認められている副作用のため頻度不明」とある。素人の患者の訴えや海外のデータは信用できないということだろうか。

 いっぽう、同様のキーワードgadolinium, anaphylaxisを英語版yahoo.comにいれると、InsideRadiology(https://www.insideradiology.com.au/gadolinium-contrast-medium/#:~:)という文書が最初に出てくる。王立オーストラリア・ニュージーランド放射線科学会が出している文書で、「ガドリニウム造影剤とはどんなものですか」「なぜわたしはガドリニウム造影剤の注射をうけなければならないのですか」など11の見出しに分けてそれぞれ簡潔な説明がつけられている。見出しの一つ「ガドリニウム造影剤注射にはどんな危険がありますか」は、「ガドリニウム造影剤は全般としてきわめて安全です。副作用(副反応)が起きることはありますが、稀です。腎臓機能が正常な患者の場合、注射されたガドリニウム造影剤の大半(90%以上)は24時間以内に尿にまじって排出されます」と具体的な数値をあげて造影剤の安全性をまず強調し、つぎに6つの小見出しのもとに危険性を列挙している。以下は一番目と2番目の小見出し「一時的反応」と「アレルギー様反応」の全訳である。


「一時的反応」

 通常の有害反応は、注射後短時間の頭痛、むかつき(かすかに吐き気を感じる)、目まいなど、ほとんどが微小なものです。接種会場で寒気を感じる患者が少数いるでしょう。


「アレルギー様反応」

 一時的反応より稀に、患者1,000人にほぼ1人の割合で、注射後数分間、皮膚に痒い発疹が出ることがあります。これは軽度のアレルギーによるものと考えられます。発疹は通例1時間ほどで自然に落ち着きますが、それがもっと重大なアレルギー反応に発展する兆候であることが稀にあります。

 ガドリニウム造影剤にたいする重篤なアレルギー反応(アナフィラキシー)は、これまで起きたことはありますが、きわめて稀です。こうした重篤な反応(呼吸困難や口唇の腫脹をふくむ)は、ガドリニウムを摂取した患者10,000人にたいしほぼ1人の割合で発現します。ガドリニウムによる重篤な反応は、他の重篤なアレルギー反応と同様、標準的な緊急薬剤処置がよく効くのが通例です。それらの処置はふつうMRI検査の前か最中に皆さんの腕に刺されるチューブを通して施されます。ガドリニウム注射をおこなうすべての放射線施設にはこうした反応に対処するのに必要な薬剤がつねに備蓄され、必要な場合処置をおこなう用意ができています。


 見てのとおり、患者の問に医療者が答える形式で書かれている。日本の厚労省とちがって、この学会ははっきりと一般患者を対象にこの文書を書いている。これこそ一般人の求めているたぐいの情報だろう。

 ところで、InsideRadiology によると、ガドリニウムによるアナフィラキシーの発症は1万人に1人の確率となっている。ボクの担当医がいっていた「100万人に1人」より2桁高い数値だ。日本のあるサイト(http://www.sihp.jp/download/kensa_all/04b_2015.pdf 昭和伊南総合病院)には、「2.重い副作用:呼吸困難・意識障害・血圧低下・腎不全・肺水腫などの症状で治療が必要となり、後遺症が残る可能性があります。発生頻度は0.01% 1 万人に1人くらいです。〇10万~20万人に1人の割合(0.0005~0.001%)で死亡事例の報告があります」とある。このサイトの死亡事例とくらべても、ボクの聞かされた確率は5分の1から10分の1の低さだ。これはどういうことだろう。25年前はガドリニウム造影剤が使用されはじめてまだ間がなかったから、その後アナフィラキシーの発現例が積み重ねられ、それで数値が上がってきたのだろうか。

 それはともかくとして、こういう既往歴があるボクにとって、最近のコロナワクチンによるアナフィラキシーは他人事ではない。厚労省は、ワクチンを受けるか否かの最終判断は個人に委ねるが、接種は国民の「努力義務」だといいだした。国民全員に行きわたるワクチンを確保できないうちに国民の義務を云々するのはいかにも日本の政府らしいや、と皮肉りたくなるが、アナフィラキシー体験者としては、ワクチン接種が始まるまでにできるだけ情報をあつめ、受けるかどうか決めておかなければならない。

 考えだすと、疑問はいくらでも出てくる。たとえば、ボクは造影剤の静脈注射でアナフィラキシーをおこしたのだから、筋肉注射のコロナワクチンは安全なのではないかとおもっていたが、先日ワクチン注射の場面をテレビで見ていてオヤッとおもった。医師(看護師?)が注射針を上腕に突きさしたのち、ピストンをすこしひき戻し、それから奥まで注液していたからだ。ピストンをすこし戻すのは針が血管に刺さっていないことをたしかめるためだと聞いたことがある。ということは、筋肉注射でも薬液が血管内にはいる可能性があるのではないだろうか。

 こんな疑問は些末すぎてたいていの人にはバカバカしくおもえるかもしれないが、アナフィラキシー体験者としては神経過敏にならざるをえないのである。それに、国民のなかには、ワクチンの副作用に神経をとがらせている人が予想以上に多いのではないだろうか。なにしろ国民の半分はアレルギー疾患をもっていると厚労省自体が認めているのだから(https://www.mhlw.go.jp/houdou_kouhou/kouhou_shuppan/magazine/2018/04_03.html)。筋肉注射で薬液が血管内にはいる可能性といった専門的な疑問は、経験のある医療従事者に問い合わせるのがいちばんだが、たいていの国民はそうした存在を身近にもっていないだろう。接種を国民の義務だという以上、日本政府は国民のさまざまな疑問に答えるシステムをまず構築してもらいたい。聞くところによると、アメリカでは、VAERS(ワクチン有害事象報告システム)という医療者向けの報告システムをすでに立ち上げているが、最近それを補完するために、ワクチン接種をうけた一般市民が各自の反応をスマートフォンでリアルタイムに報告できる v-safe というシステムを新設したという。「自発報告又は海外において認められている副作用」は相手にしないなどと言っていられる状況ではなくなっているのである。

 静脈注射/筋肉注射の問題以上に気になるのは、コロナワクチンによるアナフィラキシーの発生頻度である。アメリカ疾病管理予防センター(CDC)によると、ファイザーのワクチンでは100万回に5回、モデルナのそれでは100万回に2.8回、アナフィラキシーが発生したという(日本経済新聞2月9日)

 ファイザーは20万分の1,モデルナはその約半分の確率ということになる。季節性インフルエンザワクチンでアナフィラキシーが発生する確率は50,240,735人中53人、約100万分の1だそうだ(厚労省「医薬品・医療機器等安全性情報 No.306」2013年10月)。コロナワクチンのアナフィラキシー発生率はインフルエンザのそれの3倍から5倍高いことになるが、日本感染症学会の会長が国会で「コロナワクチンの副反応はインフルエンザや麻疹とくらべてあまり変わらない。とくにアナフィラキシーについては、とくべつ高いとか、死亡にすぐつながる事例はかなり頻度が低く、医療従事者として許容の範囲内だ」と参考人証言しているのをYoutubeでみた(2月16日)。「あまり変わらない」とか「かなり頻度が低い」といったアイマイな表現は専門家としてはやめてもらいたい。元来、ある確率を高いとみるか低いとみるかは見る人によるだろう。どんなに低い確率でも、当たってしまえば100%で、確率の低さなどなんの意味もなくなるのだから。ガドリニウムで1度アナフィラキシーを体験しているボクには、20万分の1の確率はそう簡単に「許容の範囲内」ですませられる数値ではない。すでに紹介したように、それはガドリニウムでアナフィラキシーをおこし死亡した人の確率と同じだからだ。為政者とその周囲の専門家たちがワクチンによって救われる員数とアナフィラキシーをおこす員数を天秤にかけてワクチン接種を推奨するのは理解できるけれども、どれほど確率が低くてもアナフィラキシーをおこすニンゲンがいることは忘れてほしくない。ニンゲンを員数ではかるのは旧日本軍の悪弊だったではないか。

 ファイザーとモデルナのワクチンのアナフィラキシーはポリエチレン・グリコールという物質が原因らしい。この物質はワクチンの有効成分(メッセンジャーRNA)をワクチン溶液に混ぜあわせるための溶媒のようなものらしく、メッセンジャーRNAワクチンを作るには必須の物質らしい。いっぽう、アストラゼネカ社のものはウイルスベクター・ワクチンという別種類のワクチンで、これにはポリエチレン・グリコールは使われていないらしい。これは朗報だとおもって、アストラゼネカの副反応をインターネットで確かめようとしたが、2月6日のNHKの記事「英 ワクチン接種716万人余のうち〈激しいアレルギー〉は114件」という記事しか見つからなかった。イギリスの yahoo.com UK も検索したが、Teller Report という未知のサイトが同じ数字をあげているだけだった。しかも不思議なことに Teller Report はそのニュースソースをNHKとしていた。どういうことか分からない。イギリス保健省(DHSC)や医療品・医療製品規制庁(MHRA)から出された発生頻度の公式発表は見つけられなかった。もっとも yahoo.com UK には、アストラゼネカワクチンの接種後に予想以上にはげしい発熱、頭痛、インフルエンザ様の症候がでたため、フランス、ドイツ、イタリアの多くの病院がアストラゼネカワクチンの接種をためらっている、という『テレグラフ』Web版の記事がでていた。つまり、アストラゼネカワクチンはポリエチレン・グリコールを含んでいないけれども、仏独伊の衛生当局を警戒させるほどの副作用があるらしい。

 けっきょく、日本で使用される3つのワクチンは、どれをとっても副作用の可能性がゼロではないという結論になる。ということは、もしボクがワクチン接種を選ぶとすれば、アナフィラキシーを想定しておかなければならないということだろう。

 ボクが前回アナフィラキシーをおこしたときは、すぐに救急治療室(ICUだったかもしれない)に運ばれ、数名の医師、看護師から手当てをうけることができた。それから25年がたち体力が落ちているから、今度アナフィラキシーがおきたら、せめて前回とおなじ程度の治療をうけたいが、コロナ禍で人工呼吸器やICUが逼迫している状況で、はたしてそれは可能だろうか。接種の態勢がどうなっているのか確かめるために、ガドリニウムの時とおなじように「厚労省、ワクチン、アナフィラキシー」というキーワードを  

yahoo.co.jp にいれて検索してみた。すると「新型コロナワクチンの副反応に係る概要について」という2月15日付の文書(https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/000738916.pdf)が見つかった。16ページからなる文章に、さまざまな情報が満載されていて、ワクチン接種態勢の最新状況を伝えているようだ。

 「概要」は、①副反応事例の収集・評価体制、②副反応を疑わせる症状に対する対応、の二部構成になっていて、①と②にそれぞれ8ページが割かれている。

 ① によると、副反応の収集と評価は国がおこなう「先行接種者健康調査」と「接種後健康状況調査」、および製薬企業がおこなう「製造販売後調査」の3種類が計画されているようだ。「先行接種者健康調査」は先行接種をうける医療従事者のなかから協力者をつのって実施し、その結果を公表して「個人が接種の判断を行う参考情報とする」としている。一般人からの情報収集は「接種後健康状況調査」によっておこなうが、国民全員を対象とするものではなく、都道府県ごとに1~数か所の接種会場をあらかじめ選定しておき、各調査ごとに50万回答、計300万回答を目指すとしている。「接種後健康状況調査」をおこなう方法については「調査のインフラとしてSNSを活用」としているが、SNSの具体的な活用法は示されていない。ちなみに、アメリカの v-safe はすでにそのURLがCDCのホームページ上に公開されているし、さらに独自のコールセンターも開設されているようだ。

 300万回答は調査数としてかなりの数だとはおもうが、あらかじめ調査対象をしぼっているという点で、v-safe とは根本的に思想がちがう。国民の何人が調査されるかではなく、言いたいことのある人にはだれにでも発言の機会が与えられているということが重要だ。機会均等はデモクラシーのスタートラインだろう。

 さて、②の最初の3ページは、アナフィラキシーの機序、諸外国のアナフィラキシーの発生状況、ファイザー社のワクチンの構成成分の説明にあてられている。アナフィラキシーへの対応態勢を早くたしかめたいボクとしてはまどろこしいが、使用されるワクチンが外国製で、また日本ではまだワクチン接種が開始されていない現状では、これも仕方がない。「アナフィラキシーに対する対応について」は16ページ中の12ページ目に〈ようやく〉という感じで登場する。以下は12ページ目の全文(フローチャートの図解をのぞく)である。


○ ワクチンの接種により稀に発生しうるアナフィラキシーについては、発生のリスクをできるだけ減らすための予診時の工夫、発生した場合の早期発見や早期対処、万一副反応により健康被害(病気になったり障害が残ったりすること)が発生した場合の被害救済など、複数の対策により備える。

①予診→接種→②観察→③発症・治療→④報告→⑤救済 のフローチャート(省略)


① 接種前の対応 

• 接種前の説明や問診・診察における注意点を研究班において取りまとめ、周知 

• 予診の際、予防接種の有効性・安全性、予防接種健康被害救済制度等について接種対象者等に適切な説明を行うとともに、文書同意を得た場合に限り接種を実施

② 接種後の観察 

• 適切な観察時間や見守り体制の設定等、接種直後・施設内での注意点や帰宅後の注意点について研究班において取りまとめ、周知 

③ アナフィラキシーの発症に備えた対応 

• アドレナリン製剤等、救急処置に必要な物品を、各接種会場に常備 

• 発症者の速やかな治療や搬送に資するよう、医療機関との適切な連携体制の確保 

④ 副反応の発生が疑われる症例が発生したことの報告 

• 発症を確認した医療機関が、予防接種法及び医薬品医療機器等法に基づき、(独)医薬品医療機器総合機構(PMDA)に対し、「副反応疑い報告」を速やかに実施、当該情報を厚労省とも共有 

⑤ 万一、健康被害が発生した場合の対応 

• 予防接種法上の臨時接種として、予防接種健康被害救済制度により、定期接種と同等の被害救済

 

 ③によれば、ショック症状をおさえるためのエピネフリンやエピペン(アドレナリン類)は各接種会場に用意されるようだ。しかし、ボクの体験談からお分かりのように、アナフィラキシーの対処にはアドレナリンの投与以外にさまざまな緊急処置とそのための人員が必要になりうるのである。そのような緊急事態にたいして厚労省が考えていることは、各接種会場に対応設備と人員を配置することではなく、発症者を医療機関に「搬送」することだ。しかし、救急車がいくつもの病院をたらい回しされ患者が死亡する悲劇がおきているのが現実だ。コロナ禍の病床逼迫のなかで「医療機関との適切な連携体制の確保」がそれほどスムーズにすすむとは信じられない。

 「アナフィラキシーに対する対応について」を読んでつくづく感じたのは、アナフィラキシーで命をおとすニンゲンへの配慮の無さである。たしかにそういうケースはきわめて稀かもしれないが、いることはいるのである。すくなくとも政策立案者はそういうニンゲンが国民のなかに存在することを想定しておかなければならないだろう。対策はいくらでも考えられる。たとえば、ボクみたいにアナフィラキシーを経験したことがあり、ワクチン接種による再度のアナフィラキシーをつよく警戒しているニンゲンには、事前に申告させ、必要な場合には対応設備のある病院での接種を認めればいいではないか。こういう、だれにでも思いつける対策が思いつけないのは、政策立案者たちに国民一人一人にたいする配慮が欠けているからとしかおもえない。かれらにとって「国民」はマスであり、員数なのではないか。

 つぎに掲げるのは、コロナワクチンとアナフィラキシーに関するCDC(アメリカ疾病管理予防センター)の文書の冒頭である

https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/vaccines/safety/allergic-reaction.html




COVID-19ワクチンとアレルギー反応

2021年1月22日更新


このウェブページはCOVID-19ワクチンの接種後にアレルギー反応を経験した場合の対処法を示しています。また、他のワクチンにアレルギー反応をおこしたことのある人や、他の種類のアレルギーをもっている人への忠告も載せています。このウェブページは新たな情報が入りしだい更新されます。

 

あなたがCOVID-19ワクチンの接種後、接種会場を離れたあとで、なにか重篤なアレルギー反応がおきているのではないかと感じた場合には、すぐに911番に電話して至急に治療をうけてください。


あなたがCOVID-19 ワクチンの接種後、重篤なアレルギー反応をおこした場合、

CDCは、COVID-19ワクチンの接種後に重篤なアレルギー反応(別名アナフィラキシー)をおこした人々がいるという報告をうけています。重篤なアレルギー反応とは、たとえばエピネフリンかエピペンでの治療を必要としたり、病院にいく必要のある場合を指しています。


もしあなたがこれまでにmRNA COVID-19 ワクチンに含まれている成分にたいして重篤なアレルギー反応をおこしたことがあれば、現在入手可能なmRNA COVID-19 ワクチンはいずれも使用すべきではありません。もしあなたが1回目のmRNA COVID-19 ワクチンの接種後に重篤なアレルギー反応をおこしたとすれば、2回目の接種は避けるべきだとCDCは勧告します。


 一読して分かるように、この文書も InsideRadiology と同じように市民を「あなた」とよんで、一般市民に語りかけるように書かれている。アレルギーの種類を「重篤」、「非重篤(即時的)」、「他のワクチン由来」、「食品その他由来」、「ポリエチレン・グリコール由来」に分類し、それぞれのグループごとに具体的な対処法を示していて、多種多様なアレルギー保持者にもれなく指示を届かせようという配慮が感じられる。接種会場を出たあとで副反応が出た市民への指示を文書の冒頭におき、背景色を変えて強調しているのは、さまざまなケースの危険度を勘案し、危険度の高いものから配列したのであろう。また、「重篤」や「即時的」といった専門用語はまず定義を示してから使いはじめていて、一般市民の理解度への配慮が感じられる。要するに、この文書には、市民をじぶんの友人か知人のような対等な存在としてあつかう心配りが感じられるのであって、それこそまさに厚労省の文書に欠けているものだ。吉本隆明がじぶんの占領軍体験を書いた文章(「七〇年代のアメリカまで-----さまよう不可視の「ビアフラ共和国」」)のなかで、つぎつぎに出される占領軍軍政部の政策やマッカーサーのコメントのなかにさえ「デモクラシーの理想の匂いが、すこしずつ混じっていて感心した」と書いていたが、InsideRadiology や CDC の文書にただよっているものはこの「デモクラシーの理想の匂い」なのではないか。コロナ禍の1年がボクたちに教えたことは、敗戦後75年がたつというのに日本の為政者たちはいまだに市民に対等に話しかける文体をもっていないということだ。かれらの文体はいまだに「民は由らしむべし、知らしむべからず」のままだ。     

(2021年2月25日 了)



(付記)

 文末のCDCの文書は2月25日に更新されて内容がすこし変わっている。口絵の写真は更新後のもの。CDCのホームページの検索欄にWhat to Do if You Have an Allergic Reaction after Getting a Covid-19 Vaccine?といれて検索すれば更新版が出てくる。


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