ノヴェッラ3



付録:『イル・ノヴェッリーノ』の梗概



 使用テキストは LA PROSA DEL DUECENTO, A cura di Cesare Segre e Mario Marti, Milano-Napoli 1959 所収の C. Segre 監修の Il《Novellino》である。

 Il《Novellino》この本は優れた過去の勇士達が行った事柄に従って、おしゃべりと立派な礼節の行いと見事な返事と美しい善行と贈り物のいくつかの精華を扱っている。



第一話 神は人間の言葉を話し、舌は心の過剰によって語ると告げた。高貴で優雅な心の持主よ、言葉で神を称え、最高の高潔さと礼節で語り肉体を楽しませよ。貴族の言葉と行為こそ規範だから、言葉と礼節の行為と見事な返事と優れた徳行と良き贈り物と美しい愛の精華を、過去の人々の行為に従って記したい。優れた魂の持主はそれを模倣出来る。(以下略)



第二話 インドの君主 Presto Giovanni は、皇帝の言葉と行動における賢明さを探るため、使節団を Federigo の許に送る。3個の宝石を贈り物にしてこの世で最も優れたものは何かと尋ね宮廷を観察して報告するよう命じる。皇帝は贈り物を喜んで受け取ったがその効力を尋ねることなく、この世で最も優れたものは節度(misura)だと答えた。報告を聞いた Presto Giovanni は、皇帝は言葉は賢明だが、行動では賢明ではないと評価し、宝石細工師に宝石を取り戻しに行かせた。宝石細工師は Federigo の家来達に無料で宝石を贈る。皇帝が宝石細工師を招くと、彼は宝石を皇帝に見せたので、皇帝は Presto Giovanni の贈り物を持って来させた。宝石細工師は一つを「陛下の最高の都市より値打があります」と誉め、二つ目を「陛下の最高の州より値打があります」と誉め、三つ目を見ると「帝国全体よりも値打があります」というなり、それを掴むと彼の姿が掻き消え、宝石類をさらって階段を駆け下りて Presto Giovanni の許に戻り宝石類を返した。



第三話 ギリシャの王 Filippo は賢人を投獄。賢人はスペインから贈られた一頭の馬を見て「ロバの乳で育てられた」と言う。スペインに問い合わすと事実と判明。王は一日半切れのパンを与えさせた。また王が一番気に入っている宝石に虫が入っていると言い、王が割らせると事実だった。王は一日一切れのパンを与えさせた。自分が父王の子ではないらしいと考えた王が賢人に、自分の真の父は誰かと問うと、賢人はパン屋だと言う。王が母を脅して尋ねると真実だと分かる。王が推理の根拠を問うと、賢人は馬は耳が垂れていたから、宝石は暖かかったから、王なら褒美に都市をくれるところを、パンをくれたから分かったと答えた。



第四話  Alessandro 王が Giadre(ガザ)の都市を包囲中ある騎士が捕虜の身から逃亡して王に会いにいく。途中で道化師に馬と武具一式を借りると、道化師は代償に王の贈り物を求めた。騎士が王に贈り物を求めると、王は何も答えず、そこへ Giadre の市民達が王に捧げに来た市の鍵を騎士に与えて領主にしてやると言う。騎士はそれを断って金銀を求め、王は2000銀マルクを与えた。騎士がその銀を道化師に与えると、道化師は王に騎士を逮捕するよう訴え、騎士の約束を語り、彼が勝手に断った Gindre の鍵を、自分に与えて欲しいと言う。捕らえられた騎士は、道化師にはお金がふさわしく都市の統治は無理なので、道化師に与えるためにお金を求めたのだと説明。Alessandro とその家来達は騎士を釈放してその知恵を称賛した。



第五話 エジプトの王は長子を、女の子を一度も見せず賢人や老人の中で育てた。王が息子にギリシャ人の使節達の謁見を行わせると、悪天候で欄干のそばで待っていた王子が魚の生け簀の藁の水車を回して遊んでいる子供達を見た途端、階段を駆け降り子供達に混じって遊び始めた。家来達が連れ戻すと、王子は立派に謁見を行った。賢人達が王子の行動の原因を探るが、諸説が出て混乱する。ある哲学者が王子の育て方を尋ね、年寄りの中で育った王子が子供と遊びたがるのは当然で、幼い時には子供っぽくし、老年で考えるものだと説明した。



第六話 David 王は自分の人民の数を知りたくて数え始めた。神は彼の虚栄心を怒り、天使を送り、彼に「3年間地獄にいたいか、3ヶ月神の敵の手の中にいるか、神の手で裁きを受けるか」と問う。David は「神の御手に委ねます」と答える。神は疫病を送って人民を大幅に減らす。ある日彼は乗馬中、抜き身の剣で人を殺して回っている天使を見て、馬から降りて近付き、「自分を先に殺して下さい」と頼んだ。この言葉に感心した天使は人民を殺すことを止めた。



第七話 Salamone は別の理由で神を怒らせたが、神は天使を派遣して、父 David の善行に免じ彼の代は猶予し、その子の代で王国を奪うと予告。Salamone は賢明に王国を拡大し富裕にし、何人もの妻を娶ったが男子は Roboam 一人だった。Salamone の死後王位を継承したRoboam が、まず老人の智者を集め統治の助言を求めると、人民を召集して愛情を表明し寛大に優しく統治するよう勧告があり、続いて若者たちに助言を求めると、武勇と率直さを用いて厳しく大胆に統治せと勧告される。愚かな Roboam は若者達の勧告に従って統治したため、人民は怒り領主(baroni)が秘密裡に同盟して反乱を起こし Roboam は父の王国の12分の10を失った。



第八話 ギリシャの君主 Aulix は息子に自由学芸や道徳を学ばせ、ある日黄金を与え思うように分配せよと言い、家来達(baroni)には彼の行動を見て報告するよう命じた。王子は服装、人物共に立派な人々が往来を通るのを見て、出身と身分を尋ねた。相手はイタリアから来た商人で財産は親譲りではなく自力で得たものだと答えた。後から来た貴族風の不安そうな男に同じ事を問うと、元シリア王で人民に追放されたと答えた。王子は黄金を全部元シリア王に与えさせた。王が息子に訳を問うと、王子は黄金は贈り物ではなくて代償だと答え、商人は何も教えなかったが、元王は王子に生まれても愚行によって追放されるという、自分にとって貴重な教訓を与えてくれたので、お礼をしただけだと述べた。王と家来達は王子の賢さに感心し、将来賢明な王になると喜んだ。このことは手紙で諸国の君主や領主達の間に伝えられ、賢人たちの大きな議論を呼び起こした。


 

第九話 エジプトのアレッサンドリアに回教徒の食べ物屋の通りがあり、Fabrat の店で貧乏な回教徒が持参したパンに食べ物の湯気を付けて食ぺるのを見て、その日客がなかった Fabrat は湯気代を払えと言い、相手は拒否して争いが生じる。Soldano が賢者達に論議させると、湯気代はお金のチャリンという音で支払うべしとの勧告があり Soldano がそれで了解した。


 

第十話 バーリの商人が巡礼に出発する際、無事に帰国できたら「君が望む金額を私に与えよ」と金貨300ピザンテを預ける。帰国後友人が10だけ返して290を取ったので争いが生じ、有名な裁判官「バーリの奴隷」は、「汝の望む290を相手に与えよ」と命じ友人に10だけ取らせた。


 

第十一話 医師 Giordano は弟子と共に病気の王子を診断するが、弟子は先生を出し抜くため王に王子は死ぬと診断した。先生が王子は直ると診断すると、弟子は王子に毒を飲ませて毅したので、Giordano は面目を失い医師を止めて獣医となった。


 

第十二話 David 王の隊長で元帥の Aminadab は大軍を率いてぺリシテ人の都市を包囲攻城し、もはや落城という時、大軍を率いて来るよう王に頼んだ。やって来た王が何故自分を呼んだのかと問うと、Aminadab は王に功績を譲るためだと答えた。王は都市を攻略して名誉を得た。


 

第十三話 Alessandro 大王の隊長 Antinogo はある日王が楽しみにチェトラを演奏しているのを見て叩き壊して泥の中に投げ込み、「あなたの年頃ではチェトラを弾いたりせず、統治に専念すべきだ」と言ったので王は恥じた。彼のライヴァル(インドの)Poro 王は食事の時にチェトラの演奏家にその弦を切らせて、「美しい音色で美徳(勇気)を無くしてはならない。道を誤るよりも弦を切った方が良い」と言った。



第十四話 王子が生まれた時、占星術師達が「もし十年太陽を見なければ(目が見えなくなるだろう)」と勧めて、王子を洞穴の中へ閉じ込める。十年後彼を連れ出して美しい品物と美しい娘達を見せ、品物の名前を教え、娘は悪魔だと教える。一番素晴らしい物は何かと王子に問うと、王子は悪魔だと答えた。王は驚いて「女の支配力と美とは何と凄いものだ」と言った。


 

第十五話 Valerio Massimo の第六巻。Calogno が知事だった時、他人の妻と通じた者は両眼をくりぬくべしという命令を出した。間もなく彼の息子が掟を破る。人民が恩情を求めると恩情も法も大切なので、Calogno は息子から一眼、自分からもう一眼をくりぬかせた。


 

第十六話 医者 Paolino は息子を投獄された母親から慈悲を求められて、母親と牢屋へ行って自分が牢屋に入り、獄吏に「母親に息子を引き渡して私を代わりに捕らえなさい」と言った。



第十七話 大銀行家の Piero は大変慈悲深くて全財産を貧民に分け与えた上に、自分の身体を売ってそのお金もすべて貧民に分け与えた。


 

第十八話 Carlo Magno は回教徒との交戦中に死ぬが、遺言で家来に自分の馬と武器とを売りその金を貧民達に与えるよう命じた。家来はそれらを奪う。その家来の前に Carlo が現れ、「汝が遺言を実行せぬため私は煉獄で罰を受け八代苦しまねばならない筈だったが、神様のお慈悲で浄められて天国へ行き、汝がその罪を償うことになった」と告げると、何十万人もの人々が見ている前で、天から雷が降ってきて家来とともに深淵に落ちていった。



第十九話 世界一の知恵者だと自負する Beltramo dal Bornio の扇動で、「若い王」と呼ばれる王子 Arrigo が父王 Arrigo 二世に反逆。Beltramo の勧めで王子は父から自分の全財産をもらい、全部貴族達や貧しい騎士達に分け与えた。道化師が贈り物を求めると、王子は口にただ一本残った歯を見せ、200マルクでこれを抜くと言って父のところへ行かせ、父がその金を与えるとその歯を抜く。王子はある貴族に200マルクを約束したが、侍従長や蔵奉行がそのお金が実際より多く見えるように下に綿や毛を入れた絨毯の上にお金を広げて王子に見せ、残り少ない財源からこんなにお金を与える、と警告すると、王子は「200マルクはもっと多いと思っていたが、立派な人物にはこれでは少なすぎるので400マルクあげなさい」と答えた。



第二十話 貧しい騎士が「若き王」の王子を訪ねた時、杯に盛られた銀を兵士を養うために隠す。侍従長が銀の不足に気付き騎士達を調べ始めると、王子は銀を預かり外で返して残りも与えた。貧しい騎士達が王子の部屋に忍び込むと、王子は寝たふりをして品物を取らせたが、掛け布団まで取ろうとしたので「これは窃盗ではなくて強盗だ」と咳く。騎土達は驚いて逃走。父王が彼を叱り「お前の宝はどこだ」と問うと王子は「私の宝の方が多い」と自慢し宝比べが催される。王はテントに容器に盛った金銀と立派な道具類を展示。王子は家来を大勢集め、彼が剣を抜くと家来も剣を抜き宝を手に入れた。王子が「汝達の宝を取れ」と言うと、騎士達は残された王の宝を取った。父子間の戦争が起こり,王子が Beltramo  等と城に籠もると、投げ槍が額に当たって死ぬ。死ぬ前多数の金貸しに借金が払われるまで自分の魂を牢量へ入れると約束。公証人に書類を作らせた。父王が「かくも優れた魂がお金のため牢屋に置かれることは神の御心に適わぬ」と息子の借金を支払う。王の許に Beltramo が現れ王が「汝の知恵はどこか」と問うと、「失いました」と答えた。「何時」「王子が亡くなった時」という問答で、王は彼の知恵は王子の幸いのためにあったと悟り、彼を許し贈り物を与えた。



第二十一話 Federigo 帝の許には異才が来る。食事前3人の魔術師が訪れ、皇帝が師匠に術の披露を求めると、忽ち雷と雹の大嵐となり騎士達は部屋に逃げ込む。空はすぐ晴れ魔術師は皇帝に、敵と戦うため San Bonifazio 伯爵の助けを求め、皇帝の命で伯は魔術師と旅立つ。美しい都市で魔術師達は伯に軍隊と馬と武器を見せる。敵が襲来してきて戦闘となり、伯は敵を破って国を救い、さらに三度勝利して領地を獲得。妻を娶り子どもたちを得て長年統治。息子が40歳に達し伯も老いた頃魔術師達が戻り、皇帝を訪ねようという。伯は「皇帝は何度も代わり人も変わった筈だ。どこへ帰るのか」というが、魔術師達は「かの地では汝が必要なのだ」と伯を連れ出す。長い旅路の末宮廷にたどり着くと、出発したときのままで、食事用の手洗いの水を分けあっている皇帝達を見出す。皇帝は驚いている伯に体験を語らせて楽しんだ。


 

第二十二話 皇帝 Federigo がミラノを包囲攻略中、皇帝のタカが逃げてミラノの城内に入る。皇帝は取り戻すため使者を送る。ポデスタは会議を開いて対策を協議、返すことに大勢が決まりかけたころ、老人が反対して返さないことになる。使者達は皇帝にこのことを報告、皇帝は老人がそんな提案をすることはあり得ないと様子を尋ねた。使者達から老人が様々な色彩の縞模様の服を着ていたと聞いて、それなら狂人の服装だから納得出来ると言った。


 

第二十三話 皇帝 Federigo は森へ狩りに行き、泉の畔で白い布の上にワイン入りのギョリュウの水筒とパンを載せた清潔な怠け者に会い、彼にワインを一口所望すると、口を付けられては汚いと厭がられる。皇帝は口を付けないで飲むからと説得して水筒を取り上げ、馬で逃げた。怠け者は馬から皇帝だと見抜き宮廷を訪ねる。皇帝は門番に彼を中に通すよう命じておき、現れた怠け者に何度も経緯を語らせて楽しみ清潔さを誉めて沢山贈り物を与えた。


 

第二十四話 皇帝 Federigo には二人の賢人の顧問 messer Bolghero と messer Martino がいた。皇帝は二人に臣下の所有物を法的根拠なしに自分の意志だけで取り上げることが可能かと尋ねた。一人は当然可能だと述べ、もう一人は法的根拠なしではそれは許されないとした。皇帝は前者に赤い帽子と白い馬を与え、後者に法律の起草を命じた。賢人達はどちらが良い贈り物を貰ったかを議論し、前者は道化師扱いされたとされ、後者は法律作りに従事した。


 

第二十五話 Saladino はストーヴの熱で咲かせた薔薇を冬献じた者に200(CC)マルコ与えよと命じた。蔵奉行が誤って300(CCC)と書き「どうした」と尋ねられ、「誤りました」とばつを付けかけたので、Saladino は「汝のベンが私以上に気前が良くては困る」と400(CCCC)与えた。彼が戦っていた頃、キリスト教徒と休戦、観察してもし気に入ればキリスト教に改宗しようと考えた。キリスト教徒の食事の仕方を見ると、フランス王が離れた食卓で食べ、大物達が食卓で食べている様子に感心した後、貧民が地面で食事しているのを見て、神の友がより卑しく食事していると憤慨した。キリスト教徒が回教徒の様子を見に行くと、彼らは皆地面で不潔に食事していた。Saladino はテントを用意し十字架模様の絨毯を敷いてキリスト教徒を招待。彼らが平気で絨毯に唾を吐くので、その信仰は口だけだと断じ戦いを再開した。


 

第二十六話 フランス市民の美しい妻が祭りに出かけ、仲間の一人が美しいドレスで注目を集めたので憤慨。帰宅した夫人の怒りを見た夫が訳を問い、次の儲けでドレスを約束。間もなくある人が10マルクの貸金に利子を2マルク払うと借金を申し込む。市民は地獄に落ちるからと断ったため、妻は夫が嘘つきだと怒る。夫は高利で儲けて妻にドレスを買う。妻がドレスで修道院へ行くと、人が彼女の美しさを誉めた時、預言者 Merlino が「神の敵がドレスに関与していなければ真に美しい」と答えた。夫人がその言葉の訳を問うと、Merlino はドレスをめぐる経緯を言い当てた後、悪い儲けによるものだと教えた。夫人は人々の目の前でドレスを脱ぎ、自分を危険から救うためドレスを取ってくれるように頼んだ。


 

第二十七話 ある聖人がアレッサンドリアヘ用事で出掛けたが、別の男がその後からついて来て聖人の悪口を言った。聖人は何も言わないので、一人が聖人の前に立ち「彼に何と答える」と尋ねた。聖人は「私は自分の気に入ることを聞かないので答えない」と答えた。



第二十八話 フランスには悪事を働いて裁判を受ける人は車に乗せて運ばれるという習慣があり、車で運ばれた人とはその後誰もつき合わなかった。女王 Ginevra への恋に狂った騎士 Lancialotto が車に乗って引いて回らせたため、貴族も貴夫人も楽しみに車に乗るようになった。Lancialotto は自分の物でもない王国で習慣を変えた。イエス・キリストは自分の王国で処刑されて、自分の攻撃者を許し、彼のために父に祈った。



第二十九話 パリで賢人達が集まり一人がユピテル天等諸天の上にイソピレオ天があり、その上に神がいると論じた時、狂人が「神の頭の上には何がある」と尋ねた。すると一人がふざけて「帽子がある」と答えた。狂人が去った後賢人達は「頭の上には何があるのか」と問い直し何も思い浮かばず、知恵もなしに神とその深遠な事柄を考えることの愚かさを自覚した。



第三十話 皇帝 Federigo の親友のロンバルディーアの騎士には同族はいたが、相続人がいないので財産を全部使い果して死のうと考え贅沢三昧に暮らす。十年後財産は尽きてもまだ生きていた。皇帝の友情を思い出して訪問すると、皇帝は彼を知っているくせに汝は誰かと名を尋ね、彼が名乗るとその状況を尋ね、彼が事情を語ると皇帝は「即刻立ち去れ。近付くと死刑に処す。汝は死後に誰にも財産を残したくないような奴だから」と宣告した。



第三十一話 messer Azzolino(III)には一人の語り手がいた。ある晩主君から話しを所望されたが眠くてたまらず、ある村人のことを語り始めた。村人は100ピザンテ持って市場へ行き、1ビザンテで2頭買える羊を買う。帰途川の水嵩が増していて、漁師から小船を借りて運ぶが、船が小さく一度に一頭しか運べない。村人は船を漕ぎ出したが川は広い。Azzolino がいらだち「先に進め」と命じると、語り手は「まず羊を通してから出来事を話しましょう。羊達は一年かかっても渡れませんから、たっぷり眠れます」と言った。



第三十二話 Riccar lo Ghercio はリッラの領主でプロヴァンス一の勇士の誉れが高く、スパニャータという回教徒との一回目の戦いで、先頭で敵の大軍と戦う。馬達が脅えて前進しないので、皆に馬の尻を敵に向けて後ろへ進むよう勧め、敵に紛れこんだ途端に左右の敵を討って敵軍を破った。トゥールーズ伯とプロヴァンス伯の戦いではラバに乗って戦った。伯が「どうしたのか」と尋ねると、「自分がここへ来たのは狩りをするためでも、逃げるためでもないことを示すためです」と答えてその並み外れた勇気を示した。


 

第三十三話 プロヴァンスの城代 messere Imberal del Balzo はスペイン風の占いに凝り、スペイン出身の占星術師  Pittagora を抱え、板に12星座の動物を描かせた。ある日家来達と騎行しつつ描かれた鳥に注意していて、女が歩いて来たのでどんな鳥を見たかと尋ねると、女はヤナギの切り株に止まっているカラスを見たと言う。尾がどちらを向いているかと尋ね、女が尻のほうだと答えると、Imberal は占いを恐れ今日も明日も馬て行くのを止めると家来に宣言した。女が考えもせずに答えた風変わりな返事は、プロヴァンスの評判になる。



第三十四話  messere G. と messere S. という仲の良い騎士がいた。G. が「S. は良い馬を持っているが、私が頼んだらくれるだろうか」と考えている内に表情が歪む。やがてG. はS. と口を利かず、S. を見てもそっぽを向くようになり噂に上る。S. が心配して「何故口を利かないのか」と尋ねると、G. が「ぼくが馬を求めたら君が断ったから」という。S. は「そんなことは無かったしあり得ない。馬でも人でも君にやる」と答えたので G. は元に戻り誤りを悟った。



第三十五話  maestro Taddeo は医学書の講義でナスを9日間食べ続けると気が狂うと教えた。ある学生が実験のため9日間ナスを食べ続けた後で、先生に「あの章は真実ではありません。9日間ナスを食べた私は狂ってません」と叫んだ後、立ち上がって先生に尻を出した。先生はこれはすべてナスのせいだと言い、症例として記録させた。



第三十六話 残酷な王 Balac はヘブライ人迫害を試みたが、神の愛のため手が出せない。予言者 Barlaamと相談すると、予言者は自分が行ってヘブライ人に呪いを掛けた後で攻撃すれば勝てると言う。山中で彼のロバが動かなくなり、彼が突いたり叩いたりすると、ロバが口を利き「私を打つな。火の剣を持った天使が私を通してくれない」と言う。その時彼は天使を見た。天使は死にたくなければ行ってヘブライ人を祝福せよと命じ、彼はやむなくヘブライ人に祝福を与えた。帰国後王から約束が違うと言われた予言者は、ヘブライ人が神に嫌われる方策として金銀の偶像の飾りを付けて着飾った王の女達をヘブライ人に送り、この神を信仰せぬと身を委さないと女達に言わせてマルスの信仰を広めるよう勧めた。その結果ヘブライ人は偶像を信じ女達と罪を犯したので、予言者が行って呪いをかけ、王が攻め込んでヘブライ人を征服した。ベブライ人は悔い改め女達を追放し、神と和解して自由を取り戻した。



第三十七話 ギリシャに二人の王がいて一方は他方よりも有力だったが、合戦すると有力な方が敗北した。敗れた王が寝室で呆然としていると、神の天使が現れて「どうしたのか」と尋ねた。王が敵の三倍も兵力があったのに敗れたと言うと、天使は「汝が神の敵だから」と説明。王が「では敵は神の味方か」と問うと、天使は「そうではなく神は神の敵によって、神の敵をお討ちになる。もう一度戦えば汝が勝てる」と勧め、王はもう一度戦って勝利を得た。



第三十八話 『神の国』の第六巻(実は第八巻の二)によるととても賢くて占星術に通じている Melisus(タレス)は、ある小女の家に泊まった際、天体観測のため扉を開けたままにさせておいたが、夜中に観測に出て、雨のため増水していた溝に落ちて助けを求めた。彼を助けた女は、天に気を取られて足元に不注意な賢人を笑った。


 

第三十九話 (フィレンツェ人でオルヴィエート司教の) Aldobrandino はオルヴィエートの司教座で食事をしている時、ミノーリ派の修道士がとてもおいしそうに玉ねぎを食べているのを見て、給仕の少年に「胃袋を取り換えたい」と伝えさせた。すると修道士は「胃袋は取り換えても司教の地位までは私と取り換えないでしょう」と返事させた。



第四十話 シチリアの宮廷で食前に手洗いの水が配られた時、ある騎士が宮廷人 Saladino に「Saladino よ、手ではなく口を洗え」と言うと、彼は「閣下、今日はまだあなたのことを話していません」と答えた。食後散歩していた時別の騎士が「自分は一番賢い人に私のノヴェッラを話したいのだが、誰だろう」と尋ねた。Saladino は「閣下、誰でもあなたに一番狂っていると見える人に話しなさい」と勧めた。狂人には賢人が狂人に見える。知恵は狂気の反対で、賢人には狂人が愚行に満ちているように、狂人に狂人と見えれば見える程その人は賢人だ。


 

第四十一話 ロマーニャ地方で最も高貴な騎士 Messer Polo Traversaro は暗黙の内に地方のほぼ全体を支配。同地方に優雅で愉快な三人の騎士がいて匹敵する四人目はいないと自負。彼らは自分達の宮廷で三人掛けの長椅子を作って腰掛け、隣へ掛けようとする者はいなかった。彼らの目上に当たる Polo もあえてそこには座らなかった。Polo が自分達を過度に追い回すのを見て、彼らの宮殿の入り口を壁でふさいで通り難くしたため、太った Polo は下着姿で通り抜けねばならなかった。そうして中に入ると、それを聞いた三人の騎士達は病人のようにベッドに潜ったまま彼を迎えた。食卓で迎えられると思っていた Polo は寝台にいる彼らに迎えられたので、励ますと共に気分が悪いのかと尋ねて立ち去った。三人の一人が「これは遊ぴではありません」と言った。三人は冬を越すため一人のはね橋のついた小城へ行く。Polo が家来の一団と訪れると、はね橋を上げたままいくら頼んでも中に入れなかった。冬が過ぎ三人が戻っても Polo は寝ていて彼らを迎えに行かない。一人が「よその人が来たのに迎えないとは、あなたの礼儀はどうなっているのですか」と言うと、Polo は「許しておくれ。私のために起き上がる橋のためにしか、私は起き上がらないのだよ」と答え、その時騎士達は大いに愉快がる。三人の一人が死ぬと残された二人はもはやロマーニャ中にはそこに座るのにふさわしい人はいないからと長椅子の一部を切った。


 

第四十二話  Raimondo Berlinghieri 伯時代のプロヴァンスの騎士 Guglielmo di Berghedam は、プロヴァンスには奥方と一緒に寝させるため自分のために鞍を空けなかった貴族はいないと自慢し、伯が「私もか」と問うたので、「そうです」と答えて伯に鞍や鐙をつけた馬を用意してもらい、飛び乗ると「言ったとおりでしょう」と言って逃げ去った。宴会に出席すると、伯妃が貴婦人達と共にドレスの下に棍棒を隠し持ち、彼に復讐しようと待ち受けた。伯妃が「プロヴァンスの婦人に恥をかかせたので、貴方には死んでもらいます」と言うと、彼は一つだけ願いがあると頼み、女達が許すと「貴女達の中で最も恥知らずな方が一番に私を打って下さい」と言ったため、奥方達は顔を見合わせ誰も先に手が出せず Guglielmo は難を逃れた。


 

第四十三話 ロンバルディーアの高貴な騎士 messere Giacopino Rangone は食卓に最上級の赤と白の葡萄酒入りの二杯の水差しを用意。道化師がそれを欲しがりコップを丁寧に洗って、騎士に「洗いましたよ」と差し出した。騎士は水差しをしっかりと手で掴み、「櫛を使うのはここじゃなくて他所でやれ」と命じたので、道化師は葡萄酒を貰い損ねた。


 

第四十四話  Marco Lombardo は宮廷人でとても賢い。ある市のクリスマスで多くの贈り物が与えられた時、Marco が何も貰えなかったのを見てある道化師が「私は贈り物七個もらったよ。私よりもずっと優れて賢い君が何も貰えなかったのは何故だろう」と尋ねた。Marco は君は君の分以上に貰ったね。まさにそのために私は私の分を貰えなかったのさ」と答えた。

 


第四十五話  messer Lancialotto が Sansogna(サクソニア)の騎士と決闘した時、両者は馬から降り激しく戦う。休息の間に名前を尋ねられ、彼は名を名乗る。決闘を再開した時相手は「汝の武勇より名前が私を苦しめる」と言う。騎士は彼の名を聞きその力を恐れ始めたのだ。


 

第四十六話  Narcis はとても美しい騎士だった。泉の水に映る自分の影に見とれて恋してしまい、取ろうとすると壊れるので悲しみの余り身投げして死んだ。季節は春で女達がその遺体を見付け、憐れんで水から引き上げ立てておくと、その話を聞いた愛の神がそれをアーモンドの木に変えてやった。だからその木は最も早く実を結んで愛を更新させるのである。


 

第四十七話 ある騎士が貴夫人に愛を語った時、自分が並外れて上品で富裕で美男子だと自慢した後、「あなたのご主人はあなたもご存じの通りあんなに醜男です」と述べた。その時部屋の壁の裏側にいた夫が「自分のことを片付けて、他人のことは邪魔しないでくれ」と言った。不潔なのは messer Lizio di Valbona でその相手は messer Rinieri da Calvoli だった。


 

第四十八話  Curradino の父 Currado が子供の頃、12人の同じ子供達と一緒に育てられ、彼が誤りを犯すと先生達は本人ではなく仲間の子供達を罰した。Currado が「どうして貴方達は彼らを罰するのですか」と尋ねると、先生は「それはあなたが私達の主君で、もし高貴な心を持っておられれば、他人が汝の罪で罰を受けることに苦しみを感じられるはずだから」と答えたので Currado は仲間のために誤りを犯さぬように気を付けた。



第四十九話  Tolosa の医師が大司教の姪の貴婦人と結婚。新婦は二か月内に女の子を生んだ。医師は怒りを示さず、自然学では十分有り得ると妻を慰めて子供を生ませ、出産後「婦人よ、私のために実家に帰っておくれ。娘は私が引き取って大事に育てるから」と実家に帰す。大司教は憤慨して医師を呼び、倣慢と脅しの大言を吐いた。大司教が話し終わると、医師は「私が姪御さんと結婚したのは、私の富で家族が費えると思ったからです。私は年に一人の子供を得るつもりでしたが、彼女は二か月で子供を生みました。これではとても私が家族を養うことは出来ません。親戚のお方が貧乏では猊下にも不名誉です。私よりも裕福な方のところへ嫁にやって下さい」と答えた。


 

第五十話 法学者で maestro Accorso の子の maestro Francesco は長く英国で働いた後ポローニャに帰国、コムーネの役所に出頭して申し立てた。「ある家族の父が貧乏のために故郷を離れて遠い地方に出掛け、故郷の人々を見て子供達のことを尋ね、子供達が稼いで金持ちになっているという返事を聞いた。父親が帰国すると、息子は金持ちになっていたので、父であり主人である自分に財産を渡すよう命じた。子供達は自分達が稼いだものだから父親には権利はないと拒否。裁判の結果父親は子供の持ち物の主人だからという理由で、子供達は稼いだ物を父に引き渡さねばならなかった。同様に私はボローニャのコムーネに対して息子つまり私の弟子達が持ち物を私の支配下に引き渡すよう命じることを要求する。弟子達は大家になり私が去った後大いに儲けた。コムーネは主人であり父である私が戻って来た以上、家長を論じた法が命じている通りに弟子達の財産を私に引き渡せて欲しい」。


 

第五十一話 キプロスでグァスコーニュ女が我慢出來ない辱めを受け、キプロス王を訪ね無数の侮辱を受けても平気な王に、どうすれば自分が一つの侮辱を耐えることが出来るかを教えてほしいと頼んだので、王は恥を悟り侮辱に復讐し始め、悪人に容赦しなくなった。



第五十二話 アクリの王 Giovanni のころ、不正を受けた者が裁きを求めて鳴らす鐘があった。王は賢人達の会議で道理が実現されるようこの制度を設けた。雨のため鐘の綱が擦り切れセンニンソウの葉が縛り付けられていた。アクリの騎士が年老いて役立たずになった馬に餌をやらず野放しにしていると、空腹の馬が鐘の綱のセソニンソウにかみ付き引っ張ったため、判事達が集り、馬が請願したと見なし、馬が若い時乗った騎士は馬が老いた後も餌を与えよという判決を下し、王が違反時には厳罰に処すとの罰則付きで騎士に実行を命じた。



第五十三話 皇帝はある領主に、障害者の障害一つにつき1ダナイオの通行税を取り立てる権利を与えた。通行税取り立ての役人が門を見張っていると、片足のない男が現れたので1ダナイオを求めると相手が抵抗、もみあいとなり手のない腕を出したので税は2ダナイオに増え、なお抵抗を続ける内に帽子が落ちて片目だと分かり税は1ダナイオ増え、役人が相手の頭を触ると疥癬がばれて、すぐ払えば1ダナイオで済むところを4倍払わせられた。



第五十四話 Mangiadore 司教の頃、教区主任司祭 Porcellino が女性問題で告発され司教の調べで有罪と判り、司教舘に留置され解任の判決が下る前日、好意的な召使い達から名案を授けられた。夜彼が司教のベッドの下に潜んでいると、司教が女友達を連れ込む。司教が触ろうとすると、彼女は司教が約束ばかりで全然守らないと怒る。女があくまで手中にお金を欲しがるので、司教がお金を取りに行くと、司祭がベッドの下から現れて「司教様、こうして女達が私を虜にしました。誰がこうしないでいられますか」と言ったため、司教は恥じて司祭を許した。だが他の聖職者の前では大いに司祭を脅した。



第五十五話 宮廷人 Marco Lombardo はその職業で最も賢い人とされていた。生まれが良く優雅だが隣人の批判者として知られ、教会の前庭てお金の施しは受けるが品物の施しは受けない Paolino が、うまく答えられまいと考え「マルコよ、汝はイタリア一賢い人なのに何故貧乏のままでいるのか。どうして金持ちになるよう配慮して、人に求める必要がないようにしないのか」と尋ねた。Marco はあたりを見回して、「あたりには見ている人も聞いている人もいないから聞くが、君はどんな具合いにやったのか」と尋ねる。Paolino が「私は貧乏人らしくやってきたよ」と答えると、Marco は「ではお互い秘密は内聞にしておこう」と言った。



第五十六話 マルカの人がボローニャに留学、資金切れで泣いているのを見た人が訳を聞き、最初の訴訟で儲けた1000リラを払うという条件で学費を出してやる。学生は卒業後帰郷。出資者は学費を取り戻すためついて来る。元学生は返済いやさに弁護士にならず、各々お金と知恵を損した。出資者は2000リラの損害賠償を求める訴訟を起こし、「もし君が勝てば約束の金を、負ければ損害賠償を払え」と言ったので、相手は約束の金を払ってこの訴訟を避けた。



第五十七話 ボローニャの madonna Agnesina が女達の楽しみの集りの主宰をしていた時、新婚早々の花嫁がいたので、初夜の様子を話させようと望む。まず最も恥知らずな女性から尋ね始め、彼女が「私はそれを両手で取った」と言うと、他の女達も破廉恥な仕方で語る。続いて花嫁に「あんたはどうしたの」と尋ねると、花嫁は恥ずかしそうに目を伏せて「私はそれを二本の指でつまみました」と語る。Agnese は「ああ、まさにそうだったわね」と答えた。


 

第五十八話 ジェノヴァで宮廷騎士 messere Beriuolo が小姓と喧嘩。小姓は彼の目の近くにイチジク(人差し指と中指の間に親指を挟んで侮辱する仕草)を作り、下品な言葉を吐き散らす。messer Brancadoria がこれを見て憤慨、彼の所へ行き仕返しを勧めた。Beriuolo は「私はしませんよ。相手が百回やっても、一度だってやるもんですか」と答えた。


 

第五十九話 皇帝 Federigo は過ちを犯した大貴族を縛り首にして見せしめのために吊し、偉大な騎士にもし失敗したら縛り首にするという条件で死体を監視させた。騎士は油断していて死体が盗まれ、代わりに吊す新しい死体を修道院へ探しに行く。死んだばかりの夫の墓の前で髪を掻きむしって泣き叫ぶ女を見て訳を尋ねると、女は夫が死んだので死にたいと言う。騎士はいくら泣いても夫は生き返って来ないのだから、自分を夫にして死体をなくして困っている自分を救って欲しいと頼む。それを聞いた女は忽ち騎士に惚れこみ「墓から死体を引っ張り出して、縛り首にしましょう」と騎士に勧め、騎士が死体を引き出して縛り首にするのを手伝う。騎士が「前の死体には歯が一本欠けていた。皇帝にばれたらどうしよう」と心配すると、女は夫の死体の歯をたたき砕き、他に何かあれば言うよう勧めた。騎士は「女よ、あんなに愛していた夫でもこんな目に会うのなら、おれなんかどんな目に遭うか知れたものじゃないね」と彼女から逃げ出し、自分の用事のために去り、女は恥を掻いた。


 

第六十話 シチリアとエルサレムの王 Cario d'Angio がただの Angio 伯だった頃(T)eti 伯妃を恋したが、伯妃は Universa 伯を愛した。王(ルイ九世)は違反者の心臓を奪うという条件で、馬上槍試合を厳禁したが、Universa 伯との試合を望む王子は騎士 messere Alardo di Vallieri に、聖職者になりたいと王に申し出て許しを得、その記念に馬上槍試合大会を催す許可を王から得てほしいと依頼。王は Alardo の願いを許し、Carlo が王妃や Teti 伯妃らの見守る中で Universa 伯と闘うが、途中で Universa 伯の馬が倒れ Teti 伯妃らが駆け寄って伯を抱き起こす。王子は自分の馬が倒れれば抱き起こして貰えたのにと口惜しがる。その後王子は王妃に頼んで Alardo の騎士復帰のための執り成しを求め、王妃は王と喧嘩して仲直りの時、王に何でも願いを聞いてやると約束させた後、Alardo の件で王の許しを得た。


 

第六十一話 Socrate はローマ貴族で哲学者。ギリシャ人は大使節団をローマに送りローマ人が課した税金を理論で免れようとした。Soldano から必要に応じ理性もお金も使えと命じられていた彼らは、ローマに着くと議会の前で要求を述べた。議会は使節団への返事を全て Socrate に任せると答えた。使節団はローマから遠く離れた粗末な哲人の家に到着、貧相な彼に会う。仲間同士で相談すると貧しそうな哲人は安価に買収出来そうだったので、用件を語った後ギリシャ人の君主は大金持ちだから大金を出せると哲人の説得に掛かる。哲人はまず昼食に誘い質素な食事を供した後、使節団に「一と二とではどっちが良い」と尋ねた。使節団が「二」と答えると、彼は「では行ってローマ人に服従しなさい。ローマのコムーネがギリシャ人を獲得するならば、彼等は人間と財産を獲得するだろう。私が黄金を貰うならローマ人は意図を達成出来ない」と答えたので、使節団は恥じて辞去しローマ人の命に服した。


 

第六十二話 ブルゴーニュの Arimini monte に大領主 messer Ruberto がいて、その妃と侍女には身体が巨大で馬鹿な門番 Baligante がいたが、侍女の一人が門番と寝ると侍女達が次々と寝て、一物が大きいと聞いた伯妃まで寝た。それを悟った領主は門番を殺させて心臓のパイを奥方と侍女達に送る。食後彼が女達に味はどうだったと聞くと、皆が口を揃えて「おいしかった」と答えた。領主は「Baligante は生きていた時お前達に気に入られていたから、死後も気に入られるのは不思議じゃない」と言ったので、女達は恥じて現世の名誉を失ったことを悟る。女達が修道尼となって修道院を作ると、Rimino monte の尼僧院と呼ばれて繁栄。立派な衣装や武器を着けた貴族が通ると院長以下全員が出迎えて泊めてやり、彼の気に入った相手が食事とベッドと共にし、朝男にナプキンと水を出し男が洗面を済ますと針と絹糸を渡し、ボタンをはめようとした時針に糸を通させた。男が三度試みて失敗すると持物を没収してしまい、通せた時には持物を返した上に立派な宝石を与えた。


 

第六十三話 善王 Meliadus と恐れなき騎士は生涯の敵だった。恐れなき騎士が遍歴の騎士として放浪中、彼を愛する従者達が主人と知らずに彼と会い、善王と恐れなき騎士のどちらが優れた騎士かと尋ねる。恐れなき騎士が生涯の敵善王こそ最高の騎士だと答えたので、従者達は恐れなき騎士に不意打ちを加えて捕え、駿馬を駄馬に乗り換えさせて縛り首にするため連れて行くと、途中で馬上槍試合に赴く善王らの一行と会う。事情を問われた従者達は、当然死に値する過ちを犯した罪人なので直接尋ねるが良いと答える。善王が尋ねると恐れなき騎士は真実を語っただけだと言い、その真実とは生涯の敵 Meliadus王こそ最高の騎士だということだと言う。王は従者達をやっつけて彼を助け立派な軍馬を与えるが、紋章を覆い隠し宿に着くまで開かないように命じて別れる。夕方王も従者達も騎士も同じ宿に着く。騎士が覆いを除くと善王の紋章を見つけて救助と贈り物は生涯の敵の仕業だったと悟る。


 

第六十四話 プロヴァンスの Po di Nostra Donna の宮廷では Raimondo 伯爵の息子が騎士になった時、全ての良き人々を招いた。人が来過ぎて財産や銀が不足し、地元の騎士に衣服を脱がせて宮廷の騎士に与えねばならたかった。同意する者も拒否する者もいた。宴会の席で棒の先に羽毛生え替わり期のハイタカを止まらせ、勇気と財力に自信のある者がそれを拳に止め、その年の宮廷を主催することが決まる。騎士や小姓が歌い演奏し冗談を言い、四人の賞賛役や、上達著しい者にそれを伝える役が定められた。武勇と善良さに特に優れた騎士 messer Alamanno (仮称)がプロヴァンスの美しい夫人 monna Grigia に恋したが、ひそかに恋していて誰も彼に白状させることが出来なかった。Po の小姓達は彼に白状させようと計画し、騎士達に頼んで次回のトーナメント大会の時騎士達が各自自慢することに決め、勇士 Alamannoにも参加させ白状させようと計画した。トーナメントが始まり熱が高まった後、夕方皆が休んでいる時、各自が城、オオタカ、冒険等を自慢すると、Alamanno は思わず恋人を自慢。次に会った時彼女に愛想をつかされ相手にされなくなる。騎士は悲しんで森に籠り隠者となる。人々は最高の騎士を失ったことを悲しむ。Po の小姓達が狩に行き森で道に迷い隠者に会う。隠者から Po の出来事を問われた小姓達は、優れた騎士を失ったことを惜しみ、間もなく開かれるトーナメントに騎士の参加を期待していると話す。騎士は友人に手紙を書き、馬と武器の用意を頼む。騎士が友の馬と武器を借りて登場すると、人々は喜び、扇を叩いて歓迎し、彼に恋の歌を求めた。騎士は恋人と仲直りしない限り歌わないと断る。騎士達は貴夫人の所へ行き彼を許してやるよう求めた。女は「百人の領主と百人の騎士と百人の貴夫人と百人の乙女らに一斉に私の慈悲を求める叫び声を上げさせない限り許しません」と答えた。騎士は間近い Candellara(マリアに蝋燭を捧げる祭り)に期待し、その早朝説教壇に上りカンツォネッタ(作品中に引用されている、省略)を歌うと、教会にいたすべての人々が歌に感動して貴夫人の許しを求めたので夫人は許し、以前通りの関係に戻った。


 

第六十五話  messer Tristano di Cornovaglia は Marco 王の王妃 Isotta la Bionda に恋した。王妃に会う時は王の庭の泉から出る小川の水を濁らせる。小川は宮殿の中を流れていて、王妃は水が濁ると Tristano に会いに行く。庭師が気付き王に知らせたので、王はある日狩りを催し一入騎士達から離れ泉の上の松の木に上る。Tristano が来て水を濁らせると、現れた王妃は松の影が普段より濃いのに気付き、Tristano が遍歴の旅で彼女の名前を触れ回り彼の伯父で自分の夫 Marco 王と彼女に恥を掻かせたと叱る。騎士は王妃の叱責を意外とし嫉妬した Cornovaglia の騎士達の中傷だと升明、二人に恥をかかせていないと誓い、王妃の命なら他所へ赴くが、死ぬまでには巨人 Amoroldo を倒した時のように自分が必要になると言う。木の上で対話を聞いた王は喜ぶ。翌朝 Tristano に使いをやり、無断で出発すれば心臓をえぐると伝えさせ Tristano は出発を止めた。二人は賢明な配慮で恋の現場を捕らえられずに済んだ。



第六十六話 賢い哲学者 Diogeno が水たまりで身体を濡らし崖の下で日なたぼっこをしていると、騎兵の大軍を率いた大王 Alessandro が通り掛かり、「惨めな生活を送る人よ、言え、何でも望みのものを与えてやる」と言うと哲人は「頼む、日があたるようどけてくれ」と答えた。


 

第六十七話 有力で賢明で好戦的なので Alessandro に対する防衛で頼りにされたローマ人の Papirio は、子供の頃父に元老院に連れて行かれた。母が会議の内容を知りたがり尋ねたので、彼は領土の反乱を鎮圧する必要上人口を増やすため、一夫二妻制か一妻二夫制かが審議され、前者に決まったと語る。秘密を守ると約束しておきながら、母が別の女に漏らし、それが伝わってローマ中に広がり、元老院に女達は抗議に押しかけた。元老院は訳を聞き丁重に引き取らせ、Papirio の賢さを誉め、以後父が子供を会議に連れて来ることを禁止した。


 

第六十八話 若者が Aristotile を訪ね「いやなことを見ました。以前偉大だった老人が不潔な愚行を演じていたのです。こんなことなら若死にした方がましです。どうすればよろしいか」と問う。哲学者「老化が自然の良き体熱を弱めることは否定しない。若い時に良きものを用い悪しきものを避けるのに務め、老後は習慣の力で清潔に生きる他はない」と教えた。


 

第六十九話 厳正な皇帝 Traiano が大軍を率いて合戦に赴く途中、寡婦が呼び止め、息子が不正な仕方で殺されたと訴えた。皇帝が「帰国後満足させてあげる」と言うと寡婦は皇帝が戻らない場合を心配し、皇帝が「私の後任者が正しくしてくれる」と言うと寡婦は後任者が不正だと認めないかもしれないと言う。皇帝は馬から降り不正な殺害の責任者を処刑した後戦争に赴き敵を破った。その死後法王 Gregorio は彼の正義を認め、墓を掘り返すと骨と舌だけが残っていて、彼が正しい人で正しく語ったことを示していた。法王が神に祈ると奇跡が起こり、彼は異教徒だがその魂は地獄から解放されて永遠の生命に赴いた。


 

第七十話  Ercules は誰よりも強い人だったが、妻が彼に多くの労苦を課した。森へ行くとそこでライオンや熊など多くの野獣を見た。それらを全て殺し衣類が破れたのでライオンの皮をかぶって帰宅した。妻が「よく戻って来ました。何か新しいことは」とたずねた。Ercules は「私は森から戻って来たが、お前以外の獣はすべて私が負かした。ところがお前は私を服従させた。お前は全ての獣に勝った者を負かし、私が出会った内で一番強い者だ」と言った。


 

第七十一話 (『慰めについて』)で Seneca は息子を亡くした母親に言った。「あんたが普通の女なら何も言わない。男の知性の持主なら言うが、ローマに二人の母親がいて二人とも息子を亡くして悲しんでいたが、一人は慰めを受け入れたのに、もう一人は家の片隅にこもり全ての慰めを拒否して泣いていた。どちらの女の方が優るかと問われれば、慰められた方だと答える。泣く訳を問われて息子の善良さを尊敬しているためだと言うなら、息子のためではなく自分のために泣いているのだと言いたい。自分のために泣くのは見苦しいことだ。もし常に愛していたから泣いているというのなら、嘘だと言いたい。何故なら死んでからは生きていた時程愛していないし、息子が生きていた頃彼が死ななければならないことを知りながら何故泣かなかったのか。だから泣くのを止めなさい。死ぬのは自然で必然なのだから」Seneca は Nerone の先生で子供の頃 Nerone を叩いた。皇帝になった Nerone はそれを思い出して、彼を捕えさせ死刑を宣告、特別な好意として彼に死に方の選択を許した。Seneca は温水の中で静脈を切ることを望んだ。彼の妻が彼が罪無くして殺されることを嘆くと、「罪あって死ぬよりはましだ。それだと誤って私を殺した人に口実を与えてしまう」と答えた。


 

第七十二話 ローマの大物で哲学者の Cato が獄中で貧困に喘ぎつつ、運命に「何故汝は私からこんなに奪うのか」と尋ね、運命に代わって「息子よ、私はお前を何と大事に育てたことか。欲しい物は何でも与えローマの支配権さえ与えてやった。建物、黄金、馬、衣類等全て与えたのに今私がお前から去ったとしても、何故それ程嘆くのか」と自分に答えた。Cato が「嘆きますとも」と答えた時、今度は運命が「息子よ、お前の側にはいられない。私がお前から何かを奪ったなどと嘆いてはならない。何故ならお前が失った物は本来お前のものではなかった。失うような物は自分の物ではなく、自分の物ではない以上お前の物ではないのだよ」と述べた。


 

第七十三話 Soldano はお金の必要が生じたので、領内に住む富裕なユダヤ人からお金を取り上げようと考え、使いをやって彼を呼び何が最も優れた信仰かと尋ねた。Soldano の魂胆を見抜いたユダヤ人はこの世で最も優れた宝石の指輪を持った父親が、金銀細工師に命じそっくりな指輪を二つ作らせ、三人を一人ずつ呼び秘かにそれを与えたので、息子達は自分の指輪こそ本物だと信じているが、父親以外はどれが本物か分からないという逸話を語り、どの信仰が最高かは神以外の者には分からないと答えた。Soldano は納得して彼を帰した。


 

第七十四話 ある領主がイチヂクが実り始めた季節に忠実な領民の土地を通り、木のてっぺんのイチヂクを所望。領民は領主がイチヂクを望んでいると考え、季節が過ぎブタの餌に使われ始めたイチヂクを沢山領主に献上した。領主は侮辱されたと思い、家来達に領民を縛らせ、顔目がけてイチヂクを投げさせる。イチヂクが目のそばに当たった時領民は神に感謝。不審に思った家来が主人にそれを語る。領主が訳を尋ねると、領民はもし桃を献上していたら盲になっていたからだと答えた。領主は彼を釈放し珍しい言葉を愛でて贈り物を与えた。

 


第七十五話 神と吟遊詩人が同行した時、ある晩結婚式と葬式が同時にあり、吟遊詩人は結婚式に行き、葬式に行った神は100ビザンテもらう。吟遊詩人はその金で子ヤギを買って焼き神に無断で腎臓を食べた。神が「腎臓は」と尋ねると、吟遊詩人は「この辺のヤギには腎臓がない」と嘘をつく。再び結婚式と葬式が同時にあり、吟遊詩人が金持の葬式に行くと言うので、神は死人を蘇生させる術を教えた。吟遊詩人が教えられた通りにしたが大領主の息子は蘇生せず、父親は怒って彼を縛り首にせよと命じた。神が現れ「恐れるな。私が生き返らせてやる。腎臓はだれが食べた」と吟遊詩人に尋ねる。彼は「この世にかけて私は食べていない」と答えた。神は彼に真実を言わせられなくて残念だったが、約束通り死者を蘇生させ吟遊詩人を救う。家に戻り「お前は信用出来ないから別れよう」と提案。吟遊詩入は仕方なく「お金を分けよう」と言う。神は持ち金を三つに分け、相手が訳を問うと「これは腎臓を食べた奴の分で、残りが我々二人の分」と説明。吟遊詩人は「そう言うのなら、確かに私が腎臓を食べた」と白状。人は生死に係わる場合でも言わないことを、金のために喋ることが証明された。

 


第七十六話 英国王 Riccardo は領主や伯や騎士達と馬なしで海路 Soldano の領地に渡り回教徒を多数殺し、乳母が泣き止まない子供に「Riccardo が来た」と脅す程になる。Soldano が「何人のキリスト教徒でこの殺戮をしたか」と問うと、「Riccardo とその家来だけです」という返事があった。Soldano は「そんな高貴な人物が徒歩で行くことを神が望まれようか」と言って Riccardo に馬を送る。使いが馬を王に届けると、賢い王は家来の少年に試しに乗らせた。躾けられていた馬は少年が制止できない内に走り出して Soldano の大テントの前に直行した。Soldano は Riccardo を待っていたが、計画は失敗した。敵の友好的た態度は信用出来ない。

 


第七十七話 宮廷騎士 messer Rinieri da Monte Nero はサルデーニャの donno d'Alborea の許に滞在、サルデーニャ女に恋して関係したため女の夫が donno に訴えた。彼を愛していた donno は、騎士を呼び大いに脅す。騎士は donno に、女の所へ使いをやってその行為が愛以外のためだったか否か尋ねて欲しいと言う。この言葉で領主は怒り違反すれば殺すという条件で追放した。騎士はピサの donno の執事長あての紹介状をもらい、ピサで事情を語り手紙を渡す。執事長は小バンド付きリンネル製ストッキングを与えたが、底が抜けていたので満座の騎士達の笑いを招く。Rinieri は平然と馬と子供の従者を連れて乗船しサルデーニャに戻る。donno は家来達と共に歩いていてやせ馬に乗った大柄で足の長い Rinieri が来るのを見て立腹し、「サルデーニャにいたのか」と怒鳴る。「確かに去りましたが、この底を戴くために戻って来ました」と答えて裸の足を示したので donno は大笑いして彼を許し、自分が履いていたものを与え、「お前の方がうわ手じゃ」と言う。騎士は「閣下、光栄に存じます」と答えた。

 


第七十八話 ある哲学者は領主や他の人々のために学問を俗語に翻訳するのに親切だったが、ある晩学問の女神達が美しい女の姿で女郎屋に落ちている幻を見た。彼は驚き「これは何だ。貴女達は学問の女神でしょう」と尋ねる。「そうよ」「何故こんな所に」と尋ねると、「お前が私達をここに落としたのよ」と言う。哲学者は目を覚まし、学問の翻訳は有難味を減らすことに気付き大いに後悔。汝らはすべてが万人に許されているわけではたいことを知れ。

 


第七十九話 領主の許に吟遊詩人がいたが、彼は領主を崇拝して神と呼んだので、別の吟遊詩人が「神は一つだ」と罵り、前者が主君の威光をかさに着て相手を殴る。殴られた男は主君に訴えたが、主君が彼を嘲弄したので憤慨して貧民の仲間に加わる。主君は殴った方にも叱責を加え、追放の刑に処さねばならなかった。この宮廷には贈り物を与えるときに暇を出す慣例があり、領主はパイの中に金貨を沢山入れて吟遊詩人に与えた。詩人はパイを見て落胆し「誰か客にやろう」と考え、宿屋で殴った相手が落ちぶれているのを見付け憐れんでパイを与える。彼が主君の許に暇ごいの挨拶に行くと、主君はパイはどうしたのかと尋ねる。殴った相手に与えたと答えると、主君は「不運と共に立ち去れ。お前の神よりも彼の神のほうが優れているから」と言って、パイの中身の事を告げた。吟遊詩人はがっかりしてパイを与えた相手を探しに行く外はなかった。だが探し当てたという事実は定かでない。

 


第八十話 フィレンツェの messer Migliore Abati はシチリアの Carlo d'Angiò 王の許へ彼の家を壊さないで欲しいと陳情するために赴く。彼は礼儀正しく、歌も上手でプロヴァンス語にも通じていた。シチリアの騎士達は彼のために盛大な宴会を用意し、食事が終わると親しげに宝石や部屋を見せる。ある部屋には鋳造された鋼の玉があり、その中でアロエと竜ぜん香とを焚いて室内を香りで満たす。Migliore が「これはどんな効果があるのか」と問うと、一人が「部屋と婦人に芳香をあたえる」と言う。そこで Migliore は「駄目だ。これは快くない」と評価したので、皆が取り巻いて訳を尋ねた。彼は「あらゆるものは本性を失うと駄目になる」と言う。「何故」と問われ、彼は「アロエと竜ぜん香の香りは女達の自然の良い香りを台なしにしてしまう。だから女達は古くなったカマスのような匂いしかしないので、何の価値もなくなる」と述べたので、騎士達は皆大喜びし messer Migliore の言葉を大いに楽しんだ。

 


第八十一話  Talamone や Agamenon 等ギリシャ人がトロイアを破壊し Priamo の娘 Insiona を連れ去った後、トロイアを再建した Priamo の息子達が集まって相談した際、Parigi はギリシャ人に使者を送って賠償と妹 Insiona の返還を求めようと提案。武勇が全世界に轟いている善き Ettore は、ギリシャ人の方が有力で武勇も財宝も知恵も優れているから止めるべきだと反対したが、皆の賛成は得られなかった。戦争が始まると Ettore は最も勇敢に戦いその手で2000人のギリシャ人を殺してトロイア人を守った。彼が殺されるとトロイア人は全ての防御を失った。勇ましい戦争の推進者達は勇敢さを欠きギリシャ人がトロイア人を滅ぼした。

 


第八十二話 大物封臣の娘が Lancialotto del Lac を恋したが、彼は王妃 Ginevra を愛して見向きもしない。娘は恋のため死に、臨終の床で自分の遺体を赤い絹のセマイト織張りの小船に乗せ絹のカバーと宝石で飾った豪華なベッドに寝かせ、最高の服を着せて黄金と宝石の冠をかぶらせ、豪華な帯を締めハンドバッグを持たせて海に流して欲しいと望み、バッグに手紙を入れた。娘の遺志は適えられ、遺体を乗せた帆のない船は Cammalot の海岸に流れ着き、Artu 王の宮廷で騒ぎとなる。王は船が乗り手なしに漂着したことに驚き、乗船して娘の遺体を発見、バッグの中の手紙を読ませると、「円卓の全ての騎士に挨拶を送ります。私はその愛を求めて慈悲を得ることが出来ず、この世で最も優れ最も非情な騎士 messer Lancialotto di Lac のために死にました。かくて私はよく愛したために死にました」と記されていた。

 


第八十三話  Cristo が弟子達と荒れた所を歩いていると、純金の板金が光っているのを発見。弟子達はキリストが通り過ぎたので不思議がり、多くの必要が満たせるから取って行こうと提案。キリストは「我々の国から魂の最大の部分を奪うものをお前達は望むのか。それが真実であることは帰路に実例を見るだろう」と述ぺる。間もなく二人の親友が黄金を見付け一人が近くの村ヘラバを連れに行き一人が番をした。戻って来た方が相手に二つのパンをすすめると、相手は先に黄金をラバの背に積もうと提案、ラバをつなぐため背を向けた時短剣で刺し殺す。その後パンを取り一つは自分がもう一つをラバに与えた。パンには毒が入っていたため人もラパもその場で死ぬ。キリストは帰途弟子達にその実例を示した。

 


第八十四話  messere Azzolino Romano は施しを行うと布告を出し、領内外の貧民に草原で新しい衣類と食糧を与えるという噂を流す。噂が伝わり当日多数の貧民が集まると、執事達が貧民を裸にして新しい衣類と着替えさせ食物を与える。貧民達が着ていたぼろの山に火を点けると、後に費用を上回る大量の金銀が残され全部没収された。領民の村人がサクランボを盗んだと他の男を訴える。被告は桜の木はイバラの刺で守られている、盗むことが可能かどうか使いをやって調べてほしいと言う。事実イバラの刺で堅固に守られていたので、彼の統治よりも刺を頼りにしたという理由で原告に罰金を課し被告を釈放した。最高のクルミの袋を持つ老婆が彼の圧政を恐れ、身なりを整え彼と騎士達のそばを通った時「殿様、長生きして下され」と叫ぶ。かえって彼は怪しみ「何故そんなことを言ったか」と尋ねた。女は「私達がゆっくり休息できますから」と答えた。笑った彼は膝まで届くきれいなスカートをはかせパンドを付けさせ、クルミを全部室内にばらまき、一つずつ袋にいれさせた後沢山褒美を与えた。ロンバルディーアやマルケでは、鍋のことを ola という。鍋屋が悪事で訴えられた時、彼が同座して「何者か」と尋ね、「鍋屋(olaro)です」と言う返事を彼は(ladro=泥棒と)聞き間違え「縛り首にせよ」と命じた。「閣下、鍋屋だと言っているのです」「だから縛り首だ」「何故鍋屋を」「だから縛り首にせよ」と間答が繰り返され、ようやく理解した裁判官が彼に誤解を説明したが、三度宣告されていたため変更できず鍋屋は縛り首にされた。彼がいかに恐れられたかを知る人は多い。皇帝が家来を連れて騎馬行進中、皇帝と彼のどちらが立派な剣を持っているか賭けがなされ、まず皇帝が金と宝石で飾られた剣を披露、彼は立派だが自分のはもっと立派だと剣を抜くと居合わせた600の騎士達全員が剣を抜いた。皇帝は彼の剣が最も立派だと認めた。彼は Casciano の合戦で捕虜となり、縛られていた柱で頭を強打して自殺した。

 


第八十五話 ジェノヴァで大飢饉が発生し浮浪者が増える。市当局は何隻かのガレー船と船頭を金で雇い、貧民はすべて海岸でコムーネのパンをもらえと布告した。困窮者でない者までそう装ったため莫大な群衆が集合したが、役人は「区別出来ないので、市民はこの船、外国人はその船、女子供はあちらの船に乗れ」と分乗させ、全員が乗った時サルデーニャに向けて船出させそこで彼らを放置した。そこは食糧が豊富でジェノヴァの飢睡はこうして終わる。

 


第八十六話 巨根の持主が若くない娼婦に会う。女は名門で富裕だが男多数と交わる。男が寝室で女に持物を見せると、女は喜んで笑う。男が「どう思う」と問うと、女は「(以下中断)」

 


第八十七話 ある人が神父の所へ告解に行き、話のついでに「私には兄嫁がおりまして、兄は遠くへ行っております。私が帰宅すると兄嫁は私のひざの上に座ります。私はどうすべきでしょう」と尋ねた。神父は「彼女は私にそうすべきです。立派にお礼してあげます」と言った。

 


第八十八話 マントヴァの messer Castellano(da Cafferi)がフィレンツェのポデスタの頃、messer Pepo Alamanni と messer Cante Caponsacchi が争う。ポデスタは二人を追放。後者は友人なので故郷に追放し自宅に招いて歓待。messer Cante はポデスタ夫人と寝ることで返礼。

 


第八十九話 フィレンツェ人の邸宅で騎士達が食事していた時、宮廷人がノヴェッラを話し始めるが、仲々終わらないので給仕の若者が「あんたにこの話を教えた人は全部教えなかったのでしょう」と言う。相手が「どうして」と聞くと、「終わりを教えなかったから」と答えた。

 


第九十話 皇帝 Federigo には一つの都市以上に大事にしていた鷹がいたが、鷹狩に行き、鶴を取るために放つと、空高く飛び下に若い鷲を見付けこれを襲って殺す。皇帝は鶴だと思って走り寄り、鷲の死体を見付けて激怒、死刑執行人に命じて主君弑逆の罪で鷹を斬首させた。

 


第九十一話 ある人が修道士に告解に行き、大勢である家に盗みに行ったことと金庫の中で金貨100フォオリーノを見付けるつもりが空だったと語り、自分は罪を犯していないと言う。修道士が「罪を犯している」といったので、男が怒り「どうしたら良い」と問い返す。修道士は「お金を返さないと免罪できない」と言う。男が「返したいが誰に返したら良いか分からない」と言うと、「私に持って来れば、神様に返してあげる」と勧め、男は約束して立ち去る。修道士が満足していると、翌朝男が来てチョウザメが送られて来たので修道士にもおすそ分けすると約束。幾ら待っても送って来ない。他日男が愉快そうな顔で来たので、修道士がどうして待たせるのかと尋ねると男は「貰えると思っていたの」と問う。相手が「そうだ」と言うと、「それで手に入らなかった」「ああ」「それじゃ手に入れたのと同じようたものだ」と言った。


 

第九十二話 女がウナギのパイをお櫃の中に隠す。ネズミが匂いに釣られて窓から入りお櫃に入る。女はネコを誘ってお櫃の中に入れる。ネズミは粉にもぐって隠れ、ネコがパイを食べる。女が蓋を開けるとネズミが飛び出し、ネコは満腹していたのでネズミを逃がした。

 


第九十三話 百姓が告解に行き聖水で身を清めると、神父が菜園で働いていた。百姓は彼を呼び告解を受けに来たと言う。「去年もきたかね」と神父が問うと、「はい」と百姓が答えたので、神父は「賽銭箱に1ダナイオいれなさい。去年と同じだけ免罪してあげるから」と言った。

 


第九十四話 キツネが森で見たことがないラバを見て、脅えて逃げる途中オオカミに会う。オオカミはキツネを引き留め見に行こうと誘う。オオカミにとってはラバは一層珍しい動物だったのでラバに名前を尋ねる。ラバは右の後ろ足に書いてあると言う。キツネが字が読めないと言うと、オオカミがよく読めるから任しておけと言う。ラバが右の後ろ足をあげると、オオカミが顔を近付けるがよく見えない。ラバが「小さいからもっとそばによりな」と言うので、オオカミが顔を近付けて見ていた時ラバは思い切り蹴ってオオカミを殺す。キツネは立ち去りながら「字が読めるからといって、みんな賢いわけじゃない」と呟いた。


 

第九十五話 田舎者が胴衣を買うためにフィレンツェに来た。ある店で親方はどこかと尋ねたが、親方は留守で徒弟が自分だと名乗る。胴衣を買いに来たと言うので一枚試着させ値段の交渉に入るが、田舎者は言い値の四分の一も持っていない。徒弟は足元を合わせるふりをして男のシャツと胴衣をピンで留め「脱げ」と言い、田舎者が胴衣を脱ぐとシャツも脱げて裸になる。他の徒弟達が田舎者を革の紐で叩き始め、その界隈中追い回して叩き続けた。

 


第九十六話  Bito はフィレンツェの宮廷人で San Giorgio oltr' Arno の住民だ。ser Frulli は San Giorgio の上に農園を持ちそこで取れた果物や野菜を女中にポンテ・ヴェッキオの広場で売らせていた。吝嗇で疑い深い ser Frulli は野菜の束を自分で作り、売上を毎日計算し、女中には San Giorgio の女泥棒達に用心せよと忠告する。ある朝女中はキャペツの籠を持って売りに行く途中、わざわざ白リスの外套を着て屋外のベンチで待ち受けていた Bito に呼ぴ止められキャベツの値段を問われる。「2束で1ダナイオ」と聞いた Bito は、「安いがうちには自分と女中しかいないので多すぎる」と言い、当時フィレンツェでは2枚で1ダナイオとして通用していたメダルを出し「1束と1ダナイオおくれ。メダルを1枚払うから。今度また1束もらうよ」と提案。女中はうっかり相手が正しいと思いそうした。女中の帰宅後主人は1ダナイオ不足しているのに気付き女中に間いただす。女中がそんな筈はないというと、San Giorgio で休んだろうと散々いじめて問い詰めた結果、立派な服を着た騎士とのいきさつを話す。それまでも度々彼をからかって来た Bito の仕業と知った彼は、激怒して翌朝早く錆びた剣を服の下に隠し、橋のたもとに行く。大勢の人の中で座っている Bito に ser Frulli は剣を抜いて切り付けたが、人々が止めたので目的を果たせない。宥めようと人々が訳を聞いたので、ser Frulli が語ると Bito は微笑して「では話を付けておこう。私のダナイオを返したまえ。代わりに君のメダルを取りな。後生だからキャベツの束は持って行っておくれ」と言う。満足した Frulli は「最初からこうしていれば何もなかったのに」と言いながら1グナイオ払ってメダル1個を受け取り満足して立ち去ったので一同は大笑いした。

 


第九十七話 商人が仕切りの二枚ついた樽を用意し真ん中に全体の半分の水を入れ、上下の部分に葡萄酒を入れてその部分にだけ呑み口を付ける。水の分も葡萄酒として売り二倍の代金を得た。その金を財布ごと船に載せておくと、神の裁きで大サルが現れ財布を奪い木のてっぺんに登る。商人は海に財布が投じられるのを恐れ必死に宥めた。サルは財布を開くと貨幣を海中と船中とに交互に投げ、商人の稼ぎは半分、つまり本来得るべき金額になった。

 


第九十八話 商人が帽子を運ぶ途中濡らしたので、干しておくと多数のサルが現れて帽子をかぶり木の上に逃亡。商人は長靴を買って放置し、サル達に真似させて捕え大儲けした。

 


第九十九話 フィレンツェの若者が貴族の娘を熱愛。相手は無関心で別の青年を愛しその相手も娘を愛していたが、娘ほどではない。若者は娘を狂気のように愛していたので、友人が別荘に連れて行き15日間滞在させた。母と喧嘩した娘は恋人の許に女中をやり夜中に馬で迎えに来て駈落ちしてほしいと伝えた。恋人は言われた通り門を開けるため仲間に待機させ馬で娘を迎えに行くが、娘は母が見張っているので出ることが出来ず、恋人はやむなく通り過ぎる。別荘にいた若者は友人の制止を振り切り馬で出発、城壁に着くと例の仲間のいる門が開いていたので中に入ると、一路娘の屋敷に向かいその前に潜む。娘が戸を開けてこっそり恋人を呼び馬を近付けるよう頼んだ時、若者は素早く女を馬に乗せて例の門に駆け付け、そこでは相手が誰か分からぬまま通してやる。若者は娘を乗せて10マイル走り、大きなモミの木に囲まれた草原に着くと娘を降ろしてキスした。この時初めて相手に気付いた娘は当初抵抗して大いに泣いたが、若者が涙とともに巧みに娘を宥めたため、娘は運命だと諦めて相手が好きになり若者を抱く。娘の恋人は家の中の騒ぎから娘がいないことに気付き、門の所で何者かが娘を連れ去ったことを悟る。一同は二人の行き先を求めて走る内に二人が抱き合って眠っているのに出会い、折から上った月の光で彼らを見、二人が起きたら責任を取らせようと待っていたが、待ちくたびれて眠りこむ。やがて二人は目を覚まし、自分達に害を加えなかった以上こちらも危害は与えられないと考え、娘が一番良い馬に乗り若者と共に逃走した。目を覚ました一同はどこを探せば良いかも分からず大いに悲しんだ。


 

第百話  Federigo 帝は Veglio(山の老人)を訪問して大いに歓迎された。Veglio は自分がどんなに恐れられているかを示すために上を見た。塔'の上には二人の刺客(assessini=養っている食客)がいた。Veglioが自分の大きな顎髭をつかむと、二人は身投げして直ちに死んだ。家来が彼の妻と寝ているという噂があったので、皇帝自身自分の妻を試そうと思い、ある晩起き上がって彼女の寝室を訪ねると、彼女は「あなたは今し方おいででしたよ」と言った。

全100話終


(初出 1992.5.12)


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