セルミーニ2



『レ・ノヴェッレ(Le Novelle)の要約・第二部 (第十七話〜第四十話)



第十七話

 ペルージャで Gasparo di ser Ce㏄o の若い妻 Fioretta が夫を軽蔑して、その死を望んでいた。聖ドメニコ教会の28~30才の美男子の修道士 frate Alessandro にこのことを告白すると、修道士は薬の力でそのような罪から彼女を救ってあげると約束し、秘密厳守を誓わせ、彼女にひそかに会える場所を用意させて、秘密の入り口から訪問する。そこが夫人夫婦の初夜の部屋だと知り、罪が始まった所で終わるのは都合が良いと言って、約束した薬草を取り出す。夫人に夫との性関係を尋ねると全然ないと答える。それが不和の原因だと説明し、薬で自分が夫と入れ代わるので自分を本物の夫だと思うように命じ、自分は修道衣を脱いで夫人に用意させておいた夫 Ce㏄o の短上衣に着替え、「妻よ、そばへおいで」と言う。二人はそばで話し合い、かつて夫が初めて近付いた時、妻が逃げたと語る。修道士はそれは悪いことをしたと言い、不和の原因となり得るとして、彼女に悔い改めさせた後、和平の儀式を演じさせた。彼女に夫の帽子を被らせ、自分の下ばきを彼女の手で外させ彼女自身にはかせて、彼女はすでに夫になったのだから、その力を失わないよう帽子と下ばきを自分の手で焼くように命じた。また男の身体の美しさに見とれている夫人の前で、自分の身体に様々の薬草を振りかけ、既に夫人は夫だから夫のように振る舞うように勧め、夫人は男の上に乗って十分に快楽を味わい、こうして夫婦間の不和を避けることが出来た。その後、夫人は常に修道士の指導に従う事を誓った。こうした弱い夫を持った若い妻や修道尼が不満に駆られるのは当然だ。責任はそんな立場に追いやった彼女達の父親にある。


第十八話

 フランス王の宮廷に misser Giannetto と misser Pellegrino という二人の騎士がいて二人とも30才未満で強い友情で結ばれていた。Giannetto は最近未亡人になった美しい若い婦人 Gallagiella に恋し、彼女が Pellegrino の隣に住んでいたので彼が仲を取り持ち、彼女の方も彼に恋して Pellegrino の屋敷でお互いに愛し合う。Pellegrino も彼女に恋してしまうが、彼は友を裏切らないために一人で死のうと考えた。それに気付いた Giannetto は女にすべてを打ち明け、彼女を友に譲りたいと告げる。彼女は彼を愛していたので反対したが、Giannetto は友人の方が自分よりも優れていることと、もし反対すれば二人とも失う結果になることを告げて女を説得した。Giannetto は Pellegrino に Gallagiella の案内役を頼むが、彼の家から使いが来ため急用で自宅へ戻った振りをし、もう Gallagiella も来ないと聞いて Pellegrino が眠ると、隠れていた Giannetto が Gallagiella を友の寝室に案内し、自分は馬小屋で寝る。Gallagiella は Pellegrino の隣に寝て、Giannetto が戻って来たと信じている相手に松明の明かりで自分が誰かを知らせ、驚いて逃れようとする相手に Giannetto との話し合いの結果を語る。女は Pellegrino が若くて美青年なので Giannetto 以上に気に入り説得に努めたが、相手が信じようとしないので、Giannetto が馬小屋で寝ている事を打ち明け、友に会いに行こうとする Pellegrino に自分は短剣を持って来ているので、もし戻って来なければ死ぬと告げて男に行かせた。Giannetto は友に事情を打ち明け、Pellegrino もついにその説得を受け入れて Gallagiella を愛人としたため二人の騎士の友情はますます深まる。宮廷で misser Giannetto が王の寵愛をうけている財務官 Aliotto 公と争い平手打ちを受けたので、Pellegrino が家来一人と共に愛人を訪問した Aliotto を襲って殺す。Giannetto が疑われ拷間にかけられたので、Pellegrino が王に拝謁して白状して捕えられた。王が理由を尋ねても Pellegrino はただ兄弟 Giannetto のためとしか言わないので死刑が宣告され、王と宮廷は嘆く。王の許に Giannetto が現れ王にだけ真実を語るというので、王は顧問達を去らせて事情を知り、やむを得ない理由があったことを認めて Pellegrino の命を許した。王妃と貴婦人達が Pellegrino の助命に現れる。Pellegrino を見て涙を流す Gallagiella の姿を見て王は Giannetto の言葉が真実だったと確信し、彼女に残らせてまず Aliotto の遺族と Giannetto と Pellegrino とに和解させた後、Gallagiella を呼んで彼女に二人を引き渡した。王は二人を二つの隊の隊長に任命し二人は仲良く忠義を尽くし Pellegrino と Gallagiella の愛も生きている間続いた。その後人々の間で三人の内で誰が最も忠実だったかが問題となった。




第十九話

 コッレ・ディ・ヴァルデルサのコルテに Quartata という村があり、Giglia という若くて美しい人妻がいたが、夫が病弱なので Alligrino という22才のハンサムで品の良い若者を雇っていた。五月のこと、彼のおやつを届けた Giglia は昼寝中の青年の袋の中の大きなメロンを見てびっくりし、触りたくてたまらずつい触るとますます膨張したが、男がたまたま寝返りを打ったために、起こすことを恐れて逃げ去った。その夜 Giglia はメロンを思い出して眠れなかったが、Alligrino は立ち去って会えなかった。四旬節に彼女は神父 ser Urbano にそのことを告白した。24才で美男子の ser Urbano は自分は若いのでどういう罪なのか分からないが、調べておくので明日の晩来るようにといい、隣の ser Lapo と対策を打ち合わせる。monna Giglia は monna Lasia と来たが、ser Lapo が訪れて ser Urbano に祭りを手伝うように頼み、monna Lasia の告解を分担し、ser Urbano は monna Giglia に調へた結果は、花に触ったのと同じだから罪にならないと安心させ、しかし顔に触れたことを問題にして自分の手で同様に彼女の顔を撫でて興奮させる。それから自分のリンネル50リブラの織り手を探していると言い、彼女が引き受けると、品物を見せる振りをして、秤を降ろすとき足を打った様に見せて彼女に寄り掛かり、ズボンを脱いで足を触らせ両手で足を押させた。ser Urbanoは、ある人がわたしのことを男ではないと言ったと打ち明け、コッレではそのことが噂になっていて、ある女がそれを確かめに来て、わたしのものをつかんで確かめたと言い、Gigliaにもわたしのものをつかんで男だという証人になって欲しいと頼む。女は少しためらう振りをしたが、Urbano の品物を両手でつかんでしっかりと点検し、ついでにその性能も確かめて二度にわたって乗り回し、完全な男性であることを確認した。この告解は夫人に Alligrino を忘れさせるのに大いに効巣的だったのでその後も何度も繰り返された。ser Urbano が同様の治療を多くの女に試みたので、monna Meia が夫 Bindo に語り、Bindo はコッレの司祭長に訴えたが、ser Urbano を子供のころから育てた司祭長は彼と相談して、Bindo とその妻を逮捕させた後、コムーネの牢屋に入れる。司祭長は Monna Meia だけを自分の部屋に招いて御馳走した後、明日 Bindo を取り調べるが是非女の為に役立ちたいと言って女を口説く。Monna Meia が断り切れずに身をまかすと、そこへ ser Urbano が現れて司祭長に声をかけて去る。monna Meia は司祭長に自分達は悪いところを見られたと心配し、司祭長もそれに同意して、結局 ser Urbano と Bindo も交えて四者で話し合うことになる。その前に二人きりで会った monna Meia と ser Urbano が相互の愛を確認して、Bindo が嘘を触れ回ったということにしてしまい、司祭長が延々と嘘の害を説教して、Bindo は二度と嘘を言わないということで一件落着。Meia が毎週 ser Urbano の頭を洗うことになる。蝋燭の商売でコッレから戻った Bindo は妻が ser Urbano と寝ているのを発見して騒ぎ立てたが、腹部の急病の発作で死にそうになった神父のおなかにタオルで暖めていた所だとごまかされてしまう。夫がまだ完全に納得しないので、妻は自殺すると脅して暖かいタオル運びを手伝わせて、結局夫に謝らせた。司祭の座に空席が生じた場合には、昼夜兼行でポポロのために奉仕する若くて遅しい神父を雇うことが望ましい。



第二十話

 ジェノヴァの misser Rossetto Salvini は Salerno Morelli の娘 Alessandra を娶るが、大きな商船の船主だったので一ヶ月後には旅に出た。彼には15才で品が良く美男子で修辞学と詩の勉強をしている甥の Troilo がいたが、一人後に残されて寂しい Alessandra は彼がすっかり気に入り、彼の書斎に出人りして誘惑した。まず自分が見た夢を語ると言い、美少女が彼に恋したのに彼が何もしないので結婚できなかったと語り、甥が笑い出すと決して笑い事ではなく、彼がそんなに無知だとせっかく叔父が良い話をもって来ても駄目になるから、私がすべてを教えてやろうと申し出て、相手に恋している振りの仕方やキスの仕方などを教えているうちに、Troilo も欲望に目覚め、義理の叔母にすべてを教えて下さいと本格的に入門を申し込む。Alessandra は教室を自分の寝室に移動させて下着の脱がし方から指輪のはめ方、はては羊毛のたたき方に至るまでベッドに必要な基礎知識を万事懇切丁寧に教育し、蛍雪の成果が上がりついには Troilo の方からダンスに誘うところまで上達した。そこで Rossetto が14ヶ月後長い船旅から戻った時には、学習成果としてすでに生後4ヶ月の男子が乳母の懐に抱かれていた。 Rossetto はこれを見てすっかり満足し大喜びで可愛いがり、その後も Alessandra は同じ方法で何人もの子宝に恵まれた。若い花嫁を娶って長旅に出る夫にはこういうことが起こり易い。


第二十一話

 Patrimonio に初夜の花嫁を若者達に貸す習慣がある。Corneto の若者 Beltramo が美少女 Lionetta に恋して Simoncino という友人に協力を求め、Lionetta が屋根の上で身体を焼く習慣があるのでそれを利用して近くから声を掛けた。始めは相手にならなかった少女がようやく耳を傾け始めたので、Beltramo は昨夜の夢を語り始める。「夢の中であなたの母上が現れて、私に対して私があなたに恋していることを知っていることと、しかしあなたが Giovannetto と婚約していて十日後に嫁ぐことになっていること、処女で嫁がせたいけれど、恋人にも愛させてやりたいことを告げて去られました」と話して自分の気持ちを伝える。この時母に呼ばれて Lionetta は立ち去るが、やさしい服差しに Beltramo は希望を抱く。義侠心の強い婦人 monna Lionarda が Beltramo のために一肌脱ごうと決心して、この地方では夫が花嫁と初夜を共にしないという習慣を逆手に利用して、Lionetta に夫と初夜を共にさせてやろうと持ちかけ、花婿の母親に部屋を用意させる。Lionarda は花嫁とその部屋に寵り、中から扉に長持ちを押し付けて誰も入れないようにして花婿も若者達の集団をも締め出す。集団は御馳走にありついて去り、夫は兄弟達と寝る。部屋の中で婦人は花嫁に新婚のマナーを教えてあげようといって抱き合い、万事を教え込み、その後 Beltramo を入れてやり、交代する。婦人は横から Beltramo に激励して退出する。Lionetta は夫だと信じて彼に身をまかせるが、明け方二度目の交わりの途中で Beltramo が「あの婦人は僕が本物の夫だと思っているね」と言った言葉で相手が夫ではなかったことを悟って悲しむが、結局そのまま踊り続けた。朝が来て彼は立ち去るが、互いに好意を抱きつつ楽しい将来を約束して別れることが出来た。このように何も知らない花嫁が結婚前にやさしい恋人と寝て楽しい生き方を学んでおくことは良いことである。数日後 Beltramo は Lionarda を旅館に招待して御馳走し一緒に寝てすべてを語りお礼をした。二人はその後も楽しめる間楽しんだ。


第二十二話

 善良な老 Berardo がカメリーノの領主だった時代、領主とその秘密評議会に愛されていた若い市民 Ruberto Latielanti には美しい妻 Tarsia がいて互いに深く愛し合っていた。しかし、Ruberto は Gentile という18才の美少年に恋し、フィレンツェ領域部のカステル・フィレンティーノ出身の貪欲な医師 maestro Lamberto を買収して、妻や母親に彼は結婚に適しない体質で性行為は生命に危険だと説得してもらい、妻との関係を断って Gentile と関係し続けた。彼が窓辺にバジリコの花瓶をおいた日の夜 Gentile は菜園から彼の家に忍び込み、彼と共に眠ることにしていた。ある時花瓶が合図だと気付いた妻は、夫の寝室の天井に穴を開けて夫の秘密を目撃して真相を悟る。主君の Berardo が Ruberto をペーザロに呼んだので、夫が留守の日、妻は花瓶を窓辺に置くと、Gentile は知らずにやって来た。妻は夫の部屋にいつものとおりに明かりをつけ、ベッドの夫が寝る場所の隣で眠った振りをしていると、Ruberto の不在を知らない若者は、服を脱いでベッドに入った後、相手が Tarsia だと気付く。Gentile は欲望に導かれて Tarsia に近付き、女性体験はなかったがやるべきことを知っていたので、夫人が眠っているのをこれ幸いと杓で鍋をしゃくるが、深鍋の縁で止めて置く。Tarsia は目を覚まして、暑いので寝返りを打った振りをして、「だれ」と尋ね、身体を押し付けて何故来たのかと問う。Gentile はすべてを打ち明けて謝る。Tarsia はすべて夫のせいだと言い、二人は自分達の名誉を守ることで意見が一致した。女がどうすれば良いかと尋ねると、Gentile は寝た振りをし、互いにそうしながら黙って身体を重ね合って何度も交わる。翌朝今後も続けようと約束して二人は別れた。そうして交際を続けるうちに Tarsia は妊娠し、夫は激怒して妻を死刑にしてもらおうと主君 Berardo に訴えた。Berardo に対して Tarsia と Gentile は打ち合わせたとおりに弁明し、一年間性関係のなかった夫がぺーザロに行く前に、 Tarsia に自分のベッドで寝るよう勧めたのでそこで眠っていると、夜中に隣で Gentile が寝ていることに}気付いて、怖くて声も出せないでいた。すると Gentile も Ruberto のことを白状したので、自分達はてっきり夫が自分達を慰めるため二人を一緒に寝かせたのだと信じ、二人は関係したのだと説明した。主君は Gentile をも調べて女の言い分が正しい事を確かめ、全ては医師の筋書だと信じる。その後医師と Ruberto を呼んで真相を尋ねる。Ruberto は主君の剣幕に恐れをなして全てを白状した。さらに医師も調べに罪を認めた。領主は4人を一同に集め、まず不正に25ドゥカートを得た医師をシモニアの罪で火刑に処すと宣告し、Gentile には Ruberto および Tarsia と交互に寝るべしと命じ、不満のある者は医師と共に焼かれるべしと命じた。三人は勿論喜んでこの宣告に服した。やがて Tarsia  は男子を産み、主君の命名で Benvenuto と名付けられ Ruberto の子供と認められた。その数日後 Ruberto が病死し、その遺言は全財産を二人に残すことを記し、二人に結婚するよう命じていた。遺言に従い、葬式の時には誰も泣かないで赤い服を着て楽器を鳴らして練り歩いた。葬式は結婚式となり、領主は宴会で祝い、子供を Gentile の子供と呼ばせて宝石を送った。



第二十三話

 ルッカに24才で最近未亡人になったばかりの Pellegrina という美女がいたが、小さな子供を見捨てたくないので再婚せずに母親と二人で暮らしていた。そのころルッカの司教が死んだので、コムーネの要望で23才でボローニャ大学で修辞学を学んでいた品の良い美男子の青年 missere Abraam が法王によって後任に選出されてルッカに着任した。若い未亡人はこの若い司教に恋して溜息をつき、母から問い詰められて告白した。母は司教に告白するように勧めたが娘は拒否し、やむなく母親自身が司教を訪ね、娘が大罪を犯していると相談する。そして娘を悲しみで死なせないで下さいとしつこく頼んだので、司教は翌日の20時(午後2時)に連れて来るように勧めた。翌日母は娘ともう一人の婦人と教会を訪ねる。司教は二人の婦人に席を外させて Pellegrina の相手をすると女は「自分の罪は肉の誘いです」と打ち明けたので、学問はあってもその方面の知識と体験が全然なかった司教はただ聞くばかりで何も言えず、相手が美人なので、この罪の解決は自分でなくともどんな司祭にでも可能だと判断し、「今晩研究しておくので、明日同じ時間に来て下さい」と言って去らせた。その夜肉の罪の研究をしながら、司教は女の舌と瞳とが全く別のことを語っていたことを思い出して、女がとても賢明で市一番の美人であることや自分も若いことをも考慮して方針を立て、翌日また婦人達が来て Pellegrina 相手の告解を始めた時、昨夜の研究の結果では肉の誘いは自然によるものなので罪にならないとした後、実は彼自身もそのことに悩まされているのだと打ち明ける。そして自分達が一緒に寝れば間題は解決すると述べて、そうすれば魂の幸福にも世間の評判にも役立つので一年間試してみようと提案した。女は「聖人様の言葉のよう」とその方針を褒めたたえ「おっしゃる通りに致しましょう」と同意した。女は打ち合わせ通り5時(午後11時)に女が司教館を訪問し、一緒に寝室を訪ねて二人で肉の誘惑の試練と戦うが、やがて子馬が小屋に収まる。二人は毎晩会う約束をして長く付き合い、妊娠した際は水腫だとごまかして母親が無事に処理し、司教が彼女達の罪を全て許した。




第二十四話

 フィレンツェに maestro Giannino da Lodi という演奏と歌を教える音楽の先生がいたので、Bobi di messer Gu㏄io が17才の娘 Lisa に習わせようと考えた。妻の Lapa は嫁にやった方が良いというが Bobi は娘は何も出来ないと言う。妻が先生を招くことの危険を説くが、両親の議論を聞いた娘が音楽を学びたがる。そこで Giannino は弟子の若者 Nori にハープ、竪琴、2本のファイフ等を持たせて一日二度ずつ訪問した。一日目から先生は娘、弟子は母親に惚れた。弟子が遠慮して席を外すと、先生は Lisa に楽器を習うには手を柔らかくする必要があると言い、始めは不愉快かも知れぬが習う意志があるかどうか確かめたい、もし厭なら自分は去る、ほかに入門を希望する女の子が多数いるからと威すと、Lisa は他の娘達に嫉妬してどうすれば良いかと尋ねた。先生は、先生の自然が彼女に触れないと昼夜の区別なしに楽器が弾けるようにはなれない、また先生は弟子を愛しないと教えられないが、まず弟子が先生を愛さないと先生も弟子を愛せない、自分を愛せるかと迫る。Lisa は先生が立ち去ることを恐れて、誰よりも先生を愛すると誓うと、先生は他の女の子達は先生の首にかじりついて沢山キスするのに君は堅いという。Lisa がどうすれば良いのか教えて下さいというと、みんなと同じようにしなさいと言われ、先生に抱きついてキスした。そこで先生は少女に自分の望むところを触らせ、教えたとおりにサルタレッラを踊らせた。少女の熱心さに満足した先生は、今度は相手の不足分を補ってやろうと申し出て、二人は腰を中心として音楽を満喫した。Bobi が半年間公務で家を留守にする事態が生じ、妻に娘をしっかりと監督するよう命じて出発した。夫人は先生を恋して娘に嫉妬していた上に、半年も男なしでは敵わないと考え、娘に用事を命じて自分が来た先生に会い「私はあなたが娘を悪くしていないか、心配で夜も眠れません」と話し、「あなたのミズネズミが心配で」と言ったので、先生は夫人の心配の正体を悟り、それなら自分のミズネズミを彼女の馬小屋に入れて安心させようと約束し、月曜の4時(夜10時)に尋ねると約束し、弟子の Nori に代役を命じて、自分も Lisa と約束しその時刻に二組のカップルが会う。夫人は年も身体つきも先生にそっくりな弟子 Nori を先生だと信じて満足し、その後も闇の中で先生と信じて彼と関係し続けた。弟子は先生の方針に従い、昼間何も気付いていない夫人に、先生と娘の関係に気を付けるよう警告。驚く夫人に、先生が菜園から Lisa の部屋に忍び込むのを見たと告げた。しかし夫人は自分が先生の相手をしているつもりなので安心していて、一ヶ月8夜そうした関係が続くが、秘密が煩わしくなった先生の方針で、8回目の夜、娘が、先生が来ている部屋に母を呼び、自分は先生が自分と寝ていて、Nori が母と寝ている夢を見た、と言ったので母はとんでもないと否定する。すると娘の部屋で先生が大笑いし、階下の母の部屋でも Nori が大笑いして、驚きで気を失いそうな monna Lapa に Nori がすでに8夜も一緒に寝たと告げた。真相を知った母が叱ると娘が全ては母のせいだと弁解し、4人は仲良くやって行くことに決める。父親の Bobi が帰国した時には母も娘も孕んでいた。女達が心配すると Nori は心配は無用だと言う。Bobi が衣類を送らせるために書き送った手紙の末尾に、先生は男ではなくて正しい人だから、母と娘は名誉を守るために毎晩先生に一緒に寝てもらえという一節を書き足したのだと説明した。帰国した夫の Bobi が腹を立てると、Lapa はその手紙を見せて逆にやり込め、町中の人々に公開すると脅かすと、夫は自信を失い、全てはワインのせいだと弁解して秘密にしようと提案した。Lapa は薬を用意して自分と娘の子供をおろし、娘を処女として Lamberto Rinieri の所に嫁がせた。娘が先生に習った技術は結婚後大いに役立った。結婚前のこうした教育は有益だ。

ソネット 年頃の娘を持つ父親は母親にまかして安心しておらず自分で監督せよ。


第二十五話

 シエナに領域部から来た Mattano という名の若者がいたが、富裕な農民の息子ですでに何年も香料の取引をしていた。市内でペストが流行ったので Isola の修道院に良い部屋があるので避難したが、すでにそこでは10人の青年達が避難して狩りや釣りなどで優雅に暮らしていた。彼は自分も対等と考えてその仲間に入ったので、青年達は Mattano をからかおうと考えて政治について語る。Ranieri という大変裕福な青年がリーダーとなり、シニョーレ職が改選された時に Mattano に彼が新しい委員に選ばれたと騙してからかう計画をたてた。改選の日にシエナから Mattano の宛名が入った偽手紙が届くように手配して、それを Mattano に見せてみなで祝福すると、Mattano は赤くなり、しかめ面をしている振りをするがうまく出来ない。3日目に一同は Mattano とシエナに向かい彼の家へ送る。すでに下男が連絡していたので近所の人々も待っていて、母が領域部にはかつてない名誉だと大喜びした。悪戯仲間が派遣した Falsacappa と Pecorile が来て、まえのシニョーレ達を訪問しなければならないと勧めた。Pecorile はあらかじめカピターノ・デル・ポポロと打ち合わせていて、先に使いをやって連絡していたので扉を開けて迎えられた。Mattano は二人の悪友 Falsacappa と Pecorile とに囲まれて中に入り感謝の言葉を述べると、プリオーレが「確かにあなたは選出されたが、トスカーナではなく Neroccio Salvini でだ」と言う。二人の相棒が何かの誤解だと騒ぐと、公証人が「それは Tribusonda (トルコの地名)だ」と言い、「Mattano はわしには Sciolto (無役または自由)よりも、legato (役付きまたは気違い)がふさわしい人間に見える」という。Pecorile は「われわれはからかわれた。さあ行こう。でもあと2~3度くじを引けば当たるさ」と慰めてその夜は宴会を開いて Isola に戻る。10人はなぜ戻って来たのかと不思議がる。Rinieri がみんなで行って Mattano の権利を守ろうとけしかけるが、Pecorile がシニョーレ達と争う時ではない、時を待とうととめたので、Mattano がそれに同意した。そこへ修道院長のコック Dalfino が現れて昨夜の夢の中で「理性」という名の女が現れて、皆のいる前で Mattano の所へ行って伝えよと命じられたという伝言を伝え始める。それは Mattano はシニョーレになる資格がないから諦めよ、という勧告で、その理由としてまず第一に彼は市民ではなく、領域部で生まれ育っているし、朝二度も三度も少しずつ食べてはトイレヘ行く等、食事の仕方が異常で下品なことや、手が汚くおまけにそれをなめたりすること、ニラの食べ方も葉から食べるので変であること等の理由を挙げて、こういう田舎者の無作法者には宮殿への出入りは許されないし、こんな者に助言など出来ようか、そんな統治に人は満足しないという。そしてこういう自分の欠点に気付いていないお前は獣だ。あの婦人(理性)はお前に田舎へ行けと命じた」と罵る。Mattano は「お前は余計なことを言わずに台所へ行った方が良い」と言い返す。皆が面白がり、Mattano が10ヶ月以内にシニョーレになれるかどうかを最初 Ranieri と Dalfino が賭けをし、Falsacappa がうまく Mattano と Dalfino の賭けにすり替え Dalfino が50フィオリーノの衣服を買うといえば、Mattano は自分が選ばれるまでハトと若鶏の料理で毎週皆に御馳走すると約束し、公証人の ser Cato が書類を作成、Dalfino は一晩も欠けてはいけないと念を押す。こうしてペストが治まるまでの2ヶ月は Isola で、それ以後はシエナで一同は毎日曜 Mattano の費用で御馳走を食べ続けた。(ここから話は幻想的になる)Mugghioni (ムッギオーネとは牛の蹄き声)のプリオーレがこの噂を聞いて市の議会にはかると、その市の統治権を Mattano に贈ろうという相談がまとまる。Mattano は招待され、鉄で出来た彼が磁石でできた椅子に座るようにぴったりとふさわしい椅子につくと、老いたプリオーレから mugghioni のプリオーレとBartali(校訂者にも意味不明)の法王に選ばれたことが通告される。名誉欲に飢えた Mattano は Falsacappa と Pecorile の勧めでこの地位を受け入れ、指揮棒を取る。老プリオーレが洋服たんすを開くとフクロウが飛び出し、Mattano の肩に止まってご機嫌を取る。予備の洋服たんすからトラフズク、ミミズク、メンフクロウ、カッコウ、トンビその他の鳥が飛び出して新領主を祝福した。そこへ声がして「木が届いたから食事の支度をしよう」という。そのとき大きな4つの切り株が届き、それらがかまどにくべられ、大鍋に干しソラマメやカブや野牛の4分の1、雄羊の首等をぶちこまれて、宴会の御馳走が作られ盛大に祝われた。Mattano は Bartali の法王と Mugghioni のプリオーレの地位を死ぬまで立派に勤めあげた。


第二十六話

 フィレンツェの仕立て屋の親方 maestro Gianobi には若くて美しい妻 Masa がいたが、彼のところへ隣人の monna Checca に案内されて、折半小作人の妻 monna Nanna が長衣を注文しに来たので、土曜の夜取りに来るようにと言った。Nanna が美人なので親方は惚れこみ Checca に仲介を頼むと、Checca は Masa と親しいので断るが、Gianobi がしっこく頼んだので根負けして引き受ける。しかし Nanna の代わりに Masa を寝かせようと考えて彼女に事情を打ち明けた。Checca は Nanna が承知したがカムッラ生地の下着を欲しがっていると言ってぞれも作らせた。親方は約束の土曜の夜に注文の服を作っておき、その夜自分の家で会おうと決めた。 Nanna は Checca と土曜に何も知らないまま注文した服を取りに来ると、親方は夜には出来上がると約束した。Checca は明日は Nanna が婚礼に出るから今日でないとだめだと念を押して去る。親方はその夜食事のあとで、妻に忙しいので下の店で寝ると言って降りて行く。所定の3時半(午後9時半)に Masa は普段と様子を変えて下へおり、Checcaとの打ち合わせどおり階下の寝室で待っていると、半時間後 Gianobi が店を閉めて入って来て明かりもつけずに交わる。親方は朝の鐘で店に戻り、服を仕上げて Checca に渡しうまく行ったと礼を言い、次の土曜に下着を仕上げるのでまた会いたいという。Masa は翌朝夫の勤労を誉めて、奇麗に化粧して夫を不思議がらせた。次の土曜 Gianobi は下着を仕立てて、ついでに徒弟 Facchino にも相伴させてやろうと考え前と同じ手筈で交わった後、Fa㏄hino と交替した。相手が夫だと信じている Masa 相手に若い Fa㏄hino は物も言わず6回も交わったので、Masa は翌朝立派な去勢雄鶏やラザーニャで御馳走攻めして夫を驚かす。「婚礼でもあるのかね」と問われた妻は、初夜以上の奮闘だったと夫をねぎらったので、事情を悟った夫は落胆の余り失神しそうになった。妻は Nanna に贈ったはずの下着を着て、幾ら頼んでも夫が作ってくれなかったものをやっと手に入れたとはしゃいでいた。Gianobi は Checca にも Fa㏄hino にも口止めして我慢する他なかった。間もなく夫は市外の司教の所に行く用が出来て2日間留守にした。その間に Masa は徒弟の Fa㏄hino に問い詰めて土曜の夜、彼が途中から交替したことを白状させ、証拠として自分相手に同じことを実演させた。味をしめた二人は以後 Gianobi に悟られずに大いに若さを楽しんだ。


第二十七話

 パリに missere Galeotto Falconi という若く美しい大富豪の騎士がいたが、取り巻きに囲まれ、トーナメントに勝つと皆に馬と武器を贈るなど豪勢に振る舞っていた。忠実な家来で農地の管理人でもある Federigo は心配して忠告し、主人が与えたり貸したりしきたお金をきちんと記録していた。やがて Galeotto は破産、Federigo がメモを見せて貸金の取り立てを勧めたが、Galeotto は耳を貸さない。Galeotto を愛していた王は彼を呼んで事情を問うが、「物はなくとも心は成長します。陛下の王国では常に希望が溢れております」という返事が気に入る。王は彼の取り巻きを呼んで事情を尋ねると、卑怯にも Federigo のせいにした。王は Federigo を調べ、その帳簿に2万コローネの貸しがあるのを見て、取り巻き達に Federigo に払って Galeotto を助けよと命じ、また12年間で Galeotto を食いつぶしたのだから、12年間彼に毎月100コローネを払って彼を支えよと命じた。さらに彼を王国の隊長に任命した。Galeotto が Giachetta 女伯と愛し合っているのを見た取り巻き達は、支払いを逃れるため彼を中傷して訴えた。王が王妃に調査を命じ、王妃は二人の結婚と中傷者の処刑を宣告し、王は彼らを処刑して彼らの財産をGaleottoに与えた。Galeotto は隊長として立派に指揮した。


第二十八話

 シエナに Malizia という裕福で愉快な若者がいて、市から6マイルの Vardarbia にも農園を持っていて、折半小作人の Macciante と monna Biasia の夫婦がその管理に当たっていた。二人の間には Gemina という18才の無邪気な娘がいた。Malizia はこの娘が気に入り、騙してものにしようと考え、何食わぬ顔で夫婦に娘をしっかり見張るように勧めた。そこで夫婦はこの狼こそ最高の護衛だと信じてしまった。夫は遠くへ働きに行き、妻はシエナヘ行って Gemina に一才の男の子を任せて留守にする事態が生じた。Malizia は最初の日、まず Gemina を手なずけるためやさしくして、何か欲しいものはないかと尋ね、Gemina が何もないというと、Gemina の教育に着手、18才にもなれば近所の青年とあのゲームをしているはずだと言う。相手には分からないので、そのうぶさを笑い、糸紡ぎも台所仕事も忘れるほど楽しいゲームで、知っていると良い夫に恵まれ、知らないと嫁に行った後夫に嫌われると教え、秘密を守れば教えてあげると言うと、Gemina は翌日も両親が留守になることを告げて Malizia を待つ。翌朝 Malizia は竪琴とうまい言葉とで Gemina を教育し、服を脱がせ自分のうえに馬乗りさせて、こうすればきっと夫は君を敬うだろうと教えた後、奮闘してホシムクドリの雛を鳥籠に収めた。男が娘にこのゲームは気に入ったかと問うと、Gemina は恥ずかしそうに、はいと答え、その後も教育は継続された。やがて Gemina が妊娠したため、Malizia は彼女に両親に言うべき言葉を教えた。それは彼女が既に18才でとっくに嫁に行くべきだったし、4年前から男を知っていたが、一月半前に美男の兵隊が馬を馬小屋に入れたのでこんなことになった、というもので、もしも Malizia が止めなければ、自分は兵隊とロンバルデイーアヘ駆落ちしていただろうと述べた。両親は悲しんで Malizia に相談。彼は嫁探ししている自分の裏の靴屋を自分の別荘に呼んで女を紹介し、靴屋は女に満足して話はまとまる。結婚後も Malizia は Gemina と会って楽しみ続けた。秘密が保たれたので、両親も靴屋も Malizia に感謝し続けた。


第二十九話

 シエナから4マイルの Pernina に ser Meo㏄io d'Acquapendente という主任司祭がいて、他の何よりも自分の食事に関心を払っていたが、説教が上手で人気があった。大きな雹が降って村が大損害を受けた時、それを利用して贅沢をしようと企て、ペンテコーストの説教で、天災は神の怒りの現れで、神は十分の一税だけでは満足していないと説く。自分がサヴォイアにいたころには14年間戦争も天災もなかったと言い、その土地の人々は何よりもまず神に捧げたからだと説明して、何はともあれ神に捧げよと説いた。特にサヴォイアでは卵やリンネルがどんなにたっぷり捧げられたかを話して、信者に神への奉仕の仕方を啓蒙した。そこでは死者への供養は8年続けられ、村は平和で幸福だったとしきりに誉めそやした。ところが「一に対して百の報酬」が与えられる教会への捧げ物をおろそかにして、乞食をする貧乏人や牢獄にいる囚人に施しをする愚か者が多いことを嘆き罵ると共に、教会に真っ先に捧げられるべき食品の数々を具体的かつ詳細に列挙して、正しいキリスト教信者のあるべき姿を説いて聞かせた。この説教は信者特に婦人達の感動を誘い効果満点、これこそまさに聖人だと信じられ、卵やリンネルや動物をたっぷり捧げることを誓い、事実祭日毎に教会は棒げ物でいっぱいとなった。司祭は人々に各自の聖名祝日にたっぷりその聖人に供えさせ、またおいしい物を捧げてもらうために説教でウナギ等のおいしい調理法を詳しく説いた。例えば Vincenzo という男が聖 Vincenzo の日にウナギを始めたっぷりと御馳走を供えたので、彼は食いしん坊の6人の司祭達とたらふく食べた。その後司祭達は大声で主への感謝を唱え始めたので Meoccio は人々に奇跡が起こって聖 Vincenzo が現れたと説き、御馳走すると聖人が現れると説いたため評判になり、以後は各聖名祝日に供物が増えた。シエナの大市民の一人 Lodovico Salerni が偶然そのミサに出て一目で悪人と見抜き、次から出ない。Meo㏄io は Lodovico が来ないのでその魂が心配だと述べる。Lodovico はそれを伝え聞いてポポロ達多数を連れて参列し「お前のような悪人のミサに出たくなかった」と言い、彼がインチキな説教で御馳走をまきあげて聖職者だけで食べていると正体をばらし、嘘の奇跡を説いたことを告発し、祈祷書を取り上げると献立が一杯書き込まれていた。ポポロは明日シエナで司教に訴えようと騒ぎ出した。その夜の内に Meo㏄io と助祭が逃走したところ、海賊につかまりガレー船の漕ぎ手にされてしまう。こうして7年間漕ぎ続け老いて病気にかかって盲目になった時、ローマの河口で船が難破しようやく自由になる。Meo㏄io がローマの聖ピエトロ教会の階段でで乞食をしていると、たまたまローマ滞在中の Lodovico と Nardo da Cersa が喉の端の特徴で彼を認め、憐れんで身の上話を聞いてやり、自分は誰かを言わずに彼を馬に乗せて Acquapendente の自宅に連れ戻る。そして貧民や囚人に施しを行うことの是非を尋ねると Meo㏄io がそれこそ最高の施しだと言ったので、Lodovico はかって主任司祭から別のことを聞いたと言い、その男は夜逃げしたと語る。Meo㏄io がその男は死んだそうだがととぼけると、Lodovico は彼を追放したのは自分だと言う。Meo㏄io はそれは良いことをしたと誉めた。Lodovico は彼を追い出したのと、盲目で病気の乞食をこのように保護するのとどっちが神の心に適うかと尋ねたので、Meo㏄io は返答しきれないと答えた。Lodovico らはシエナに立ち去ったが、Meo㏄io は正しい答えを出そうとして慎重に助言を求めたとされている。


第三十話

 ペルージャに Arcolano di Santu㏄io の息子で Venturello という若者がいたが、親が何でも好きにさせて一度も叱らなかったばかりか、むしろけしかけさえしたので、生意気で恥知らずのおしゃべりになった。たまたまこの Venturello がまだ22才になったばかりのころ、プリオーレの一人に選ばれ、自分よりもずっと年長の同僚達を見下し、なにかあると真っ先に口出しした。人々は彼の父親 Arcolano にそのことで忠告したが父親は「どうして息子が好きにしてはいけないのか」と弁護するだけだった。Venturello は市民が陳情に来る毎に、彼らに自分の意向が何でも通るように約束して同僚にそれを押し付けた。反対する人には激しく言い募って言い返し、思うように決まると真っ先に会議場から出て来て、同僚を非難しつつ自分の尽力で実現したかのように陳情者に宣伝した。そういうことはすぐ同僚に知れ渡った。当時ペルージャには Brunoro 伯と100人の槍兵を雇う計画があり、彼一人が反対して審議が長引いていた。プリオーレ達の長 Guidalotto が投票させて案を通したが、反対は Venturello の一票だけだった。ところが真っ先に Venturello が外へ出て、伯の書記官に自分の尽力で伯とその軍が雇われたが反対は一票しかなかったと自慢したので、書記官は感謝した。Guidalotto は Venturello が出たのを見て、家来をやって Venturello の行為を見張らせ、その報告を受けると、すぐに仲間と相談して決議をひっくりかえし、書記官を呼んで残念なことに今回は駄目になったが次回はうまく行くよう祈るという。Venturello が驚いて抗議し、公証人の記録を確かめたいと言うので、Guidalotto が公証人に議事録を読ませる。公証人は Venturello 一人が反対したが通過した経過を読み上げた。Guidalotto は書記官にこんなふうに Venturello 一人反対したが、明日の朝は様子が変わると言った。書記官は一人でも反対があれば伯は来ないだろうと答えて去る。Venturello が抗議すると Guidalotto は彼こそ過ちを犯したと叱り、他の同僚も皆それに同意した。何日か後大いに論議を尽くし、全員一致で伯を招くことに決めた。その数日後 Venturello は自分が愛している娘の父親である Meo della Ce㏄a のために小さな要望を行った。しかし彼の意向を知っていた同僚は共同して一票差で否決する。Venturello は Meo の息子に失敗したと述べて帰らせた。プリオーレ達は使いを送って工作し、Venturello がそれほど協力していないことにして、Meo に Guidalotto と相談させ、Guidalotto は意外な人物が反対しているが、要望は通してあげると伝えた。Meo は Venturello にお礼を言う代わりに「誰が働いてくれたか知ってるぞ」といやみを言ったため Venturello はがっかりする。こうしたことが重なったため根は賢明な Venturello は自分の非を悟り、同僚の前に身を投げ出して謝罪して反省し、父の教育のせいで無知だったが、自分を叱ってくれたことに感謝し、プリオーレ達が父親以上の役目を果してくれたと泣きながら礼を言った。プリオーレ達も涙をこぼした。こうして Venturello は心を入れ換え皆に好かれるようになる。Vinciguerra という人が、Arcolano に相手の息子を誉めた後、Arcolano よりも Guidalotto の方が Venturello の教育に役立ったと言ったので、Arcolano は Vinciguerra に平手打ちを食わせ、怒ったVinciguerra は短剣で Arcolano を刺し殺した。Venturello は父の仇 Vinciguerra の三人兄弟を呼び、父の教育に欠点があったことを認めて三人を許した。市民はそのことに感心し、彼もすべての市民に対して優しく振る舞い、市で最も好かれる人物となり、後には市の領主となることができた。


第三十一話

 Soria の一部で二日間の行程で Monforte 伯 Alvigi と Belvaso 市の領主 Siverio 侯とが戦っていたが、侯の軍隊が攻め込むと伯の軍の反撃に会い、敗北して侯は戦死。その軍も潰滅して Belvaso 市は伯の支配下に入り繁栄を続けた。同市には最も富裕で最高の家柄で高慢な市民 Macedonio と賢明で善良で勇敢な市民 Cherubino がいた。Macedonio は市の重大問題で Cherubino の影響力が自分より大きいのを見て、秘密の親戚である伯の秘書 Savojetto の協力で Cherubino を追放しようと考え、Savojetto を通して伯にライヴァルの中傷を行った。秘書は伯に Cherubino は Siverio 侯にあまりにも忠実だったので、伯の支配に不満を抱いていて反乱を企てていると吹き込む。伯は Cherubino の出頭を命じ、 Belvaso 市内では Ma㏄donio が Cherubino が現れ次第処刑するよう手配した。Savojetto が Macedonio の親戚であることを知っている Cherubino は、馬で4人の息子と共に伯の許に出頭し、到着するとすぐに立ったままで伯に対して弁明を始め、自分は Siverio 侯の臣下だったから彼に忠実だったが、今は領主の伯に対して忠誠を誓うと言い、Savojetto に対し、汝を偉大にし秘密を打ち明ける主君を裏切るのと、自分の主君に忠実でいるのとどちらが悪いかと問い詰め、Savojetto が裏切り者の侯を助けたのは良くないと答えると、 Cherubino は秘書の Savojetto は実は Macedonio の親戚 Sanguigni 家の出身で、戦争の間、常に Macedonio と連絡を取り続けて伯に不利な情報を漏らしており、そのため伯の計画は10日前から知られていたことを、多くの実例と共にばらしてしまう。伯は直ちに Belvaso から Macedonio を呼び、彼が嫉妬から Cherubino を罪に落とそうとしたことを知ってその舌と両手を切る。さらに Savojetto の裏切りは死罪に値すると判断し一族を処刑し、彼を柱に縛って弓で射させ、その首を罪状を記した大理石の柱に吊して見せしめとした。Monforte で14人の共犯者を見付けて斬首にした。 Cherubino は忠義の家来と見なされ、Savojetto の地位を与えられ、親子は伯に忠実に仕えた。


第三十二話

 ギリシャの多島海の Metelin 島はギリシャ人が支配し、Scio 島はジェノヴァの高貴な Maunesi 家 によって支配されていたが、Maunesi 家の人々は Scio 島の都市と城を占領すると、各村の最も権威ある4人を選んで市内に移住させて市民とし、僅かの間にコムーネのあらゆる官職と名誉を彼らに委譲した。Maunesi 家の人々は彼らの内の Ramingo と Cerboneo の二人を秘密顧問として重用したが、田舎者の癖に二人は極めて賢明かつ狡猾で歴代の領主に大いに気に入られて市の収入の大半を占めるマスティチェ(漆の一種)の収入を扱う書記に任命される。彼等は僅かの間に大いに富み、Maunesi 家の老当主が死んで若い息子が相続すると実権は二人の手中に移る。Ramingo 達は村人達と組んで政治を進めたので田舎の人々は大胆になり、彼らの手で殺人や暴行が相次いでも罰せられない。市民は何も反対出来ないので Maunesi 家の支配を憎み始めた。市の旧家の人々は排除され、村人が市政を牛耳る。このことが Metelin 島を治めるギリシャ人の領主の耳に入ると、彼は Scio 島を襲い大損害を与えた。Scio の百才を越える善良な市民 Bonifazio がこの事態に危機感を抱き、Maunesi 家の領主達に会って市の各家の代表者の会議を開催して欲しいと要望して、その会議が開催された。Bonifazio はまず25才以下の若者と100年前に市民でなかった家の者の退場を命じ、こうして村人と若僧を排除した後、「わたしが100人を選抜して宝の在りかへ連れて行く」と宣言し、全員の承認を得てから100人と共に Ramingo と Cerboneo の家を襲い、そこに蓄えられた50万ドゥカートを超える富を奪い二人を捕えて牢屋へぶち込んだ。それから議会に戻り全員に宝を公開して「これらの宝の泥棒を牢屋にぶち込んだ。ネズミを財布に入れるなと言われているのに、そうしたのでこうなった。村人は市民の敵だ。愛想笑いしていても敵意を隠している。Maunesi 家の政策で村人は市の実権を握った。Cerboneo と Ramingo は食うや食わずでやって来て、40年足らずでこんなに宝をかき集めた。マスティチェの儲けをピンはねしたからだが、彼らが太った分だけ我々が痩せ細った。しかも彼らは村人の為に図り、殺人や暴行を見逃した。我々の市はそのために貧しくなった。人には愛郷心が備わっているが、彼らは村人だから当然市よりも村を愛する。だから彼らを市の役職に付けてはならない。私は彼らを笑わずにはおられなかった。彼らは白を黒と言い立てて勝手なことをした。彼らが物を食べる様子はおかしかった。米に砂糖を付けて食べたり、スープ皿をパンの大きなかけらで一杯にした。贅沢に慣れても指を舐めている。服も贅沢だが土を耕していた手には全然似合わない。思い出しただけでもうんざりだが、彼等は君達を馬鹿にし始めていた。Ramingo と Cerboneo は終身牢屋に閉じ込めるべきだ。またその子孫を役職に付けてはならない。十分の一税は教会に治めよ。Ramingo ら以外の村人は自分の村に戻るべきだ」と勧告した。これらの勧告は実行され、Ramingo と Cerboneo によって追放された無辜の市民は呼び戻された。議会からは村人が排除され、100年を経ていない家の出身者は役職に付けないことになった。法制がまとまり村人も正気に戻り卑しい身分に戻った。すべての法が神の心に適い、Scio と Hetelin の島民は和解して宝は本来の持主に戻され、市は秩序をは回復し、市への税金もきちんと払われた。Bonifazio は生きている間中、領主とコムーネの双方から尊重され、その子孫もその後常に「良き勧告の家」と呼ばれた。


第三十三話

 ヴィテルボに25才のミノーレ派の修道士 frate Ugolino da Rieti がいて、第三会員(在俗修道会員)monna Terozia の17才の娘 Fioretta に惚れた。そこで説教の時に子供達に告解を受けさせないと破門されると脅かす。驚いた monna Terozia が彼に相談に行くと三日以内に来させないと破門だと脅かしたので、翌朝娘を連れて来た。修道士は娘に結婚が良いか、修道尼が良いかと尋ね、娘が結婚を強く望んでいるのを知ると、秘密を守ることを約東させた後、母親が娘を修道尼にしたがっていると脅かし、同時に結婚の幸福を宣伝する。当時ヴィテルボには Luciano という富裕で美男子で娘達の憧れの的のローマの若者が滞在中だったので、frate Ugolino は自分の言うとおりにすれば Luciano が彼女と持参金なしの結婚を望むだろうと Fioretta を喜ばせた。彼はまだ40才未満の未亡人 monna Terozia が19才の天使のような助祭 frate Polidoro に惚れていて、焼いたウナギ等の御馳走を贈っていることを知り、まだ十分若々しい彼女の様子から一計を思いついて、彼女に、自分達の助祭にそんなに狂ってくれては、彼をよそへ飛ばしても後を追って行って教団に恥をかかすだろうから、それもできず、心底困っていると脅かした。frate Polidoro をよそに飛ぱされてはと心配した未亡人が、どうすれば良いかと相談すると、教団の恥を避けるためには彼女を Polidoro と寝かせる他はないと考えたと言い、月曜の夜4時(午後10時〕菜園から Polidoro の庵室を尋ねるよう勧めた。monna Terozia が娘を一人にするのは心配だというと、Ugolino は自分が乾燥したアナグマの心臓を貸してやるから、それでまじないをかけると娘は日が昇るまで目を覚まさないので安心するようにと言う。母親が了解したので Ugolino は告解に来た Fioretta に Luciano と結婚するには聖書の『詩篇』を読む必要があるので、自分が夜行って教えてやると約束して訪問する手筈を整えた。Ugolino から協力を求められた助祭は勿論同意し、約束の時間に母親は窓と戸口を閉めてアナグマのまじないをかけた後、 Polidoro を訪問して朝までたっぷり楽しんだ。眠った振りをしていた Fioretta は Ugolino が合図すると扉を開いて中へ入れる。Ugolino は自分の身体を触らぬと彼女に約束させて中に入り、Luciano に彼女を恋して娶らせるためには、生まれたばかりの姿で『詩篇』を聞く必要があるとして、彼女を裸で寝かせた。『詩篇』を聞くとその効果で何をしても罪にはならないと教え、Luciano に彼女を恋させて一緒に寝させるための準備として、自分が Luciano の役を演じて彼女にどう振る舞うべきかを教え込む。巧みな教育によって快楽に目覚めた Fioretta は、今後も Ugolino の薫陶を受けることを望み、月曜毎に楽しみは繰り返されて14回に及ぶが、ついに Fioretta は妊娠し、彼女の親戚から疑われたと知った frate Ugolino はローマを訪れた帰途に逃亡、ボローニャ人 Carpino と同行した。川にくると frate Ugolino は Carpino に葡萄酒の代金を払ってくれれば川を渡してやると言い、途中で「お金は」と問うと相手が「胸の中」と言ったので川にほおり出し、二人はつかみ合いをした後に笑い始めた。夕方シエナの門近くの宿で Ugolinoは Carpino に自分の大金見せ、それをヴェネツィア・ドゥカートに両替してフランチェスコ団の総長に送り恩赦を求めるつもりだと述べた。宿屋の主人が怪しんだので、知人がラバを売ったお金を代わりに預かっていると弁解した。二人は聖フランチェスコ教会で大勢の修道士をつれた教団の総長に敬意を表すると、総長は彼が教団の規定に反し相棒を連れずに一人で旅しているのを怪しみ、誰が相棒かと尋ねた。Ugolino はあわてて Carpino だというが、その後 Carpino が総長に Ugolino がヴィテルボから逃亡して来たところをラバに乗せで助けてやり、ラバを売ったお金を彼の勧めに従って Ugolino の名義にしたら、そのお金を奪われてしまったと泣いて訴え、宿屋の主人も証人になったため Ugolino は投獄され、その晩鞭打ちを加えられることに決まる。Carpino はボロニーノ銀貨一枚を約束の葡萄酒代だと Ugolino に与えて出発した。他方 monna Terozia は妊娠した娘を叱ると、娘がアナグマの呪いのせいだと弁解したので、母親は fra Ugolino に騙された事を悟り、娘に堕胎用の飲物を飲ませ、自分は昼間に fra Polidoro に会うことにした。母が留守の時、Luciano が通るのを見て、Fioretta が「今晩あなたの家に行きます」と言うと、Luciano は娘の器量にびっくりして喜んで彼女を迎え、一緒に食事して娘の相談に乗る。母が修道院に入れるという言葉に同情して妻にしょうと約束。ペストが終わったのでローマヘ戻る時、彼女を召し使いに男装させて自宅に連れ戻り、母親も呼び寄せた。母は身奇麗に着飾った娘を見て「雌ブタ」と罵ると娘は「あなたは Polidoro と楽しむことばかり考えて全然私のことを考えてくれない」と反論した。母は一度ヴィテルボに戻り全財産を持って娘の許に来るつもりだったが、Polidoro に会うと離れられず、三年闇楽しみ、全財産を使い果たした。Polidoro は修道士の総会に出発したまま帰らなかった。男に捨てられた monna Terozia は間もなく結核で死ぬ。Luciano は約束どおり Fioretta と正式に結婚し、娘夫婦は生涯幸福に暮らした。frate Ugolino は鞭打ちの後牢獄か.ら出ることを許されず、Polidoro は他人に唆されたという理由で寛大な裁きを受けた。


第三十四話

 Bindaccino というフィエゾーレ出身の若者が、病気治療のために Petriuolo の温泉に一年近く滞在していた。彼はたかり屋で、タカをいつも拳に止まらせていた。常に新しい客を物色して、欲しいものがあったら用意してあげるなどと約束して食事にありついていた。シエナから来た4人の若者がタカと上品な様子に騙され、仕送りを待っているという彼の言葉を信用して食事をたかられたが、騙されたことに気付いて、いたずらを計画した。Binda㏄ino は特に召使やコックに嫌われていたが、シエナの4人組はそうしたコックの一人 Venturello の協力を得て、彼に古いパンツを渡し、柔らかくなるまで煮させた。4人組は食事をしながら、温泉の主人と湯治客一同に御馳走を振る舞いたいので、Binda㏄ino に温泉の主人を食事に招待して世話役になるように依頼した。彼は二つ返事で引き受け主人を招待しに行き、帰って来ると4人組は食事を終わり、召使達が食事していた。Bindaccino が食事に加わると、Venturello は打ち合わせどおり Arrigo Tedesco に用意したズボンの皿を持って行かせ、それまで皆が食べていた胃袋料理の皿と共に提供した。Binda㏄ino は交互に食べるが、ズボンが堅くて食べられず、バンドにぶつかったので Venturello に確かめると、彼は洗濯して皿のうえに置いたパンツが紛れこんだと言って、Arrigo をしかる振りをして騒ぎ立てる。翌日の宴会の席で、あらかじめ打ち合わせたとおり温泉の主人が Venturello 達にその事件を語らせ、Bindaccino が怒って Arrigo を罵ると、Arrigo は「パンツ食らいのろくでなし」とやりかえす。二人の男がパンツがなくなったと主人に報告し、Binda㏄ino が食べたと訴え、彼の処罰を求める声が温泉中に響く。人々は帚を持って Binde㏄ino を追い回し、彼はひそかに逃げ出すが、噂は郷里にも伝わり、Binda㏄ino には「パンツ食らい」というあだ名が付けられ、パンツがなくなると「Binda㏄inoの所へ行け」という諺が生まれた。




第三十五話

 シエナで Federico di Puglia 伯がセナトーレだったころ、その部下の騎士にひどい吃りがいたが、ある晩市内を巡回中、彼に劣らぬ吃りの鍛冶屋 maestro Manno が卸金やスープ漉しを抱えて売り歩いているのを見て、何をしているのかと尋ね、鍛冶屋が吃ったので、騎士はからかわれたと思い、役所へ引き立てようとする。鍛冶屋の子供の名付け親 Memmo de' Rossi が保証に立つが、彼も吃りだったので騎士はますます怒り、二人を役所に引き立てる。セナトーレも陪席判事も大いに面白がる。騎士は怒って辞職を申し出た。セナトーレは判決を翌日に延ばし、missere Reame および Agnolo di Giovanni de' Salimbeni にも出席を勧める。Agnolo di Giovanni の家来の Tartaglia もひどい吃りなので、Reame はすぐに彼を呼びにやり、Agnolo が彼になすべきことを指示した。Tartaglia が騎士に向かって考えを述べると、騎士はますます怒り出す。4人が負けじとしゃべり出したために、あらゆる自然の騒音に勝る騒ぎが生じた。聴衆と共に散々笑ったセナトーレは、判決は自分と Reame と Agnolo の三人で決めると言い、夕方に延期。その夜立派な晩餐を用意して一同に御馳走した。4人は御馳走を食べると心が和み、Memmo が和解を申し出て騎士も同調、一同和解に同意して仲直りし、Memmo は騎士に自分の子の名付け親になるように頼むと、Tartaglia が三人揃って名付け親になることを提案し、生まれた子には三人が洗礼に立ち会い、主任司祭が聞き取れるように Co と名付けた。その子は24才まで生きたが、吃りでも舌がおかしい訳でもないのに、その言葉は父母を含む誰にも分からなかった。聾唖者ではなく人の言葉はよく分かるとても美男子の礼儀正しい善良な青年で、言葉以外は非の打ち所のない好青年だったため、見る人を悲しませた。


第三十六話

 シエナの Vannuccio Cardini の若くて美しい妻 monna Rosa は夫が Sarteano の城代として留守にしたので、Val di Strove の農地の収穫に12才の娘と出掛けるが、その土地の農夫 Bindo㏄io の、最高の美男子で品良く賢い18才の息子 Gordesco が気に入る。明日用事でシエナヘ戻るので Gordesco について来て欲しいと彼の父に頼み、自宅に連れ戻り、夕食を御馳走して親しくなり、持病の発作があるからという理由を付けて同室で寝かせ、発作の冶療のために自分の身体を触らせて、病気が冶ったお礼だと言って交わり、秘密を誓わせてその後も関係を続けることを約束した。帰路でも夫といつも交わる場所を教えると Gordesco も土地の魔力に感応して役目を果した。娘の Isotta が壁に穴を開けて二人の関係と会話を隣の部屋から見聞し、母に倣って15才の従兄と楽しみ始めると母に見付かり、母は怒って二人を棒で叩いたが、娘が母の Gordesco との振る舞いや、出産後何ヶ月か後に、初めて少年相手に夫には試みたことのない騎上位を試みたという打ち明け話を父にばらすと脅かしたため、賢い母は直ちに方針を変え、見て見ぬ振りをして互いに相手の幸福を尊重することにして、各自は楽しく暮らした。息子や娘はその欠点を補い、世間の非難から守ってくれる師匠につけるのが望ましい。女の子には特にそういうことが起こり易い。


第三十七話

 madonna Gentile がフィレンツェを治めていたころ、30才の賢く美しい未亡人 monna Gioiosa が最近父をなくしたばかりの16才の美少年 Smeraldo に恋した。彼は4才の妹を持つだけの孤児で文法学校に通っていた。未亡人は Smeraldo に「親戚なのに自分に声をかけない」と叱り、せめて妹の世話だけでも手伝おうと毎土曜日に自宅に呼んで御馳走した。カーニヴァルの夜には自宅に招き、少年が帰ろうとすると無理に泊め、いろいろな口実を作って一緒に寝て、くじで当たった人が好きな相手と寝る Villaparente のカーニヴァルの習俗を教えて教育したので、聡明な少年はすぐに教えが気に入って立派にマスターした。翌朝未亡人が少年に対して、悪の道に迷わずに、夜は彼女の家に来て食事をして寝て行くようにすすめると、少年は健気にその忠告を守った。少年の二人の友人 Alberto と Giuspieri が彼の行動を観察して、Alberto が鎌をかけると、少年は「馬で2マイル、徒歩で2マイル、合計4マイル行った」と未亡人との関係を漏らしてしまったので、二人はケーキの分け前に預かろうと計画し、Alberto は少年の代わりに未亡人に使いを送り、少年になりすまして訪問し、入り口でキスして彼女の家に入り込み、髭が生えていたので驚いて怒る彼女を Alberto は説得し、彼女自身と少年との名誉を守るためには、Alberto とその隣に現れた Giuspieri の二人を仲間に入れてやらざるを得ない事を納得させた。こうして三人が共同で未亡人の奉仕に勤しんで多くの夜を過ごした時、近所の嫉妬深い女 Raminga が彼らの行動を観察した結果、正義感に燃えて当局に告発し、madonna Gentile が未亡人を取り調べる。未亡人は少年への恋と二人の名誉のため侵入者を受け入れたことを正直に告白し、Smeraldo、Alberto、Giuspieriもそれが事実だと証言した。madonna Gentile はまず Raminga に対して調べた結果無実だと判明したので、彼女が monna Gioiosa 達4人を誹謗したことを公表することを告げ、二度とそういう真似をしたら彼女を焼き殺すと脅かして去らせた。続いて Gioiosa には恋のせいだからと無罪を宣告し、彼女の耳元で「私自身あなた以上に振る舞えたという自信がないからこうしたの」とささやいた。Smeraldo にも仕方がなかったことを認めてやった。他の二人には Smeraldo と Gioiosa を悩ますためだったかと尋ね、二人が Gioiosa と自分達を楽しませるためだったと答えたので、彼らの若さも考慮して自分の裁量で無罪とし、4人に秘密厳守を誓わせるとともに、分別ある行動を求めて放免した。この判決が妥当かどうかには疑問の余地がある。


第三十八話

 英国に Federigo 伯という残酷な暴君の領主がいた。若く徳の高い夫人 Ginevra は隣の有力で由緒ある領主 Orlandino 伯の娘だった。Federigo は Luigi Rasponte の若い未亡人 Gigliotta に惚れて、宮殿の庭園のはずれの邸宅で彼女が女友達とやって来るのを待ち、Gigliotta 一人を邸宅に誘って付き合う。Gigliotta の 亡き夫 Luigi の弟で伯が信頼している最も高貴な家の出の27才の財務官 Galeotto がたまたま全てを知って亡き兄のために悲しみ、伯妃にこれを伝える。彼女も窓から伯に導かれて未亡人が邸宅に入るのを見て激怒し、復讐を誓って Galeotto の協力を求める。彼も協力を約束したので、伯妃は Galeottoを寝室に導いて一緒に寝た後、伯妃は復讐は流血を伴う残酷なものでないと意味がないとして、二人で復讐の計画を練った。復讐の日、 Galeotto は伯の印章を利用して、城の守備兵を全部自分の味方に入れ換え、伯妃は父に手紙を書いて月曜の朝、夜明け前に軍を率いて市から2マイルのリーナ川の橋の地点で待機するように依頼した。それから二人は未亡人達に変装して伯とのデートに出掛け、喜んで出迎えた伯を襲い、Galeotto が声を出させないため首を絞め、伯妃が短剣で刺し殺す。やがて現れた未亡人達を屋内に入れて殺し、その後まず Galeotto の親戚を呼んで一室に待機させ、次に伯の親戚や悪事の仲間を呼んで深い牢屋に閉じ込めた。それから伯にいじめられたり、その悪事の犠牲者となった伯の敵達を招待して Galeotto の一族と合流すると、その数は150人に達した。伯妃が伯を殺したと告げると一同は喜ぶ。伯妃は市民達を武器庫に連れて行き、伯が彼等から取り上げた武器を返還し、そこへ Orlandino 伯とその一軍が到着した。一同を前にした伯妃は伯の悪事を語り、その夫を皆に代わって殺したことを報告した後、突然皆の前にひざまづいて「私はいくらでも復讐を受けます。死んで欲しければ死にます」と謝罪した。その時あらかじめ決められた通り missere Vallerano という人物が立ち上がつて感謝の言葉を述べ、伯妃が好きな人を選んで結婚し、二人で領地を統冶して欲しいと希望を述べる。Orlandino 伯も市民達を褒めたたえて、娘に結婚することを勧めた。人々が万歳を叫び、Vallerano が伯妃に Galeotto との結婚を勧め、一同が賛成して歓声を挙げ、二人は結婚して領地を治め、伯の味方は遠方に追放されて一人も戻らなかった。伯が奪ったものは全て返還され、新しい領主の夫妻は宗教に従って賢明に正しく統治した。

カンツォーネ Ⅰ(4行×2+5行×1)汝の父と母を敬え。汝が父母にしたことをそのまま汝は子供達からされるだろう。汝達を育てるための両親の苦労を思え。

カンツォーネ Ⅱ(4行×31+5行×1)人の外見に騙されてはならない。他人は信用できない。争いは分け前を求めて起こる。

カンツォーネ Ⅲ(4行×32+5行×1)毎日世の中が悪くなっている。貪欲と食欲のため人は悪くなっていく。卑しい者や田舎者に心を許すな。


第三十九話

 ペルージャに Ba㏄io da Firenze と Sansonetto da Perugia という二人の仕立て屋がいたが、店を共同で出して、とても仲良く付き合っていた。Sansonetto は最近死んだアッシジの亡命者の娘 Nardina と、Ba㏄io は、Petru㏄ioという男と婚約しているが持参金が足りないため嫁に行けない妹 Bamba と一緒に暮らしていた。Ba㏄io が Nardina に惚れてうまく話をつけ、Sansonetto がそれに気付く。そのお返しに Sansonetto は Bamba に、Ba㏄io が彼女の持参金の不足分50フィオリーノに無頓着なことに同情する振りをして自分も協力してやろうと言って彼女を喜ばせ、Ba㏄io が知人の結婚式に行った夜、彼女を訪問して、相手が25才にもなりながら何も知らないことを利用して、そのままでは大事なワニが閉じてしまって使えなくなるとか、最高の快楽の源泉であるワニを使わずに25才を過ぎると命にかかわる等と脅かし、さらに自分こそこの町最高のワニ使いという評価を受けたことがあると自慢して Bamba の信用を獲得し、ワニの活用法を教えたあげく、「これで今の所は大丈夫」と安心させる。Bamba もほっと胸を撫で下ろし、命のためなら仕方がないとワニの利用を繰り返しているうちに病み付きになり、いつかは師弟の地位が逆転する上達ぶりを示したので、どうせ復讐のためならこれでは不十分と、二人はわざと Ba㏄io の目に触れるところでワニ使いを実演した。「何をしている」と Ba㏄io が怒ると、Sansonetto は本当ならあんたが Petru㏄io にやらせるべき事柄を私が代わりにやってあげているだけさ」とうそぶいたので、Ba㏄io がますます猛り狂った時、Sansonetto が「そういう君こそ私が大事に育てているかわいい養女に手を出したじゃないか」とやり込めると、Ba㏄io はぐうの音も出ない。そこへ妹が自分はもう25才にもなるのに50フィオリーノのお金をどうするつもりと追い討ちをかけると、兄の Baccio にはもはや返す言葉もなかった。そこで Sansonetto が Bamba と Nardina とを交換して互いに夫婦になってはと提案し、Baccio は Petruccio から来た使いに断りを言い、Petruccio 側は多少怒ったものの何とか収まり、Baccio は公証人に頼んで正式の書類を作らせた。二人の友人はその後兄弟として一生仲良く暮らしたという。

カンツオーネ(4行×2+5行×1)を6度繰り返し最後に5行×1を追加。若いうち、恋のできる間に楽しめ。他人の羨望など気にするな。美しい男の顔を見よ。



第四十話(この話は未完)

 ボローニャで二人の学生が議論していた。「君が勧めたけれども、私は止めておいた」「いや私は勧めなかった。むしろ止めろと言った」と。三人目が参考となる小さなノヴェッラを話した。マントヴァにお互いに好意を示しあっている若者 Parente と Giovannuzzo がいたが、Giovannuzzo は未亡人 Grania に恋して Parente に相談した。Parente は裕福で独身の君なら何も心配はないと間に立って話を進め、Giovannuzzo の父の友人で隣人でもある Sinibaldo の反対を押し切って、Giovannuzzo が彼女に200フィオリーノ贈り、そのお金を Grania が持参金にして Giovannuzzo の許に嫁ぐ。Giovannuzzo は Parente の奔走と忠告とに感謝して、今後も彼の忠告に従うと言う。そこで Parente は一緒のベッドに寝ないように、また下着をねだったら平手打ちを食わすようにと勧め、女には夫に下着をねだるように勧めて女が平手打ちされるように仕向け、夫が冷たいので助言を求める女には親身になって相談に乗る。女が虐待に耐え兼ねて家出するというと、母が悲しむから実家には帰らず自分の家に来るよう勧め、やって来た女を説得して自分のベッドに寝かせ、夜中に病気の発作を起こしたと称して女に触れ、お礼を言いながら子馬を馬小屋に収めてしまう。そこで Grania は Parente が彼女に特別な好意を抱いていたことを知っていたと語り始め...(以下中断〕。


第二部おわり


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