創刊号・内容紹介


百万遍 Hyaku-man-ben 創刊号 

2018年7月30日発行





【創刊の辞】

 昨年秋の末だったか、「1970年頃、京都の百万遍界隈をうろうろしていた者」たちが何人か集まったことがあった。かの時から50年半世紀、それぞれ遠くに散らばって、百万遍に行くことは絶えてなくなっていたが、心のどこかではそこをうろうろしていることがあった。百万遍は、実際あの頃一番よく通った場所であったし、東一条の正門に対して裏門にあたるそこは、大学の内に対して外を象徴するところだったからである。で、その内から飛び出したりあるいは追い出されたりした者がうろうろするのが百万遍だった。またそこでは、その内で行われる正規の授業に対して、自主講座と称する授業が行われたりもした。

 この同人CD-ROMは、そうした者たちが呼び掛けて、その後それぞれが続けてきた「自主講座」の成果を、デジタルという新たな手段を得て、もう一度「百万遍」から世界に発信しようとするものである。

(2018.7 高田記)



内容紹介


○ Riflessi dal Sol Levante nell’opera di Marco Besso  「マルコ・ベッソの作品におけるソル・レヴァンテ(日本)の反映 Reflections from Sol levante (= Japan) in the work of Marco Besso                (Teresa Ciapparoni La Rocca


 Marco Besso (1843-1920) は、イタリアの実業家、蔵書家として知られ、Fondazione Marco Bessoを設立。格言研究家でもあり、著書『Roma e il papa nei proverbi e nei modi di dire, 1889』には日本の格言が二つ収められており、その由来をたどることによって、19世紀末から20世紀始めの日伊両国の交流関係を探る。




○ Alcune Riflessioni Sulla Morte di SEN NO RIKYŪ   「千利休の死についての考察   Some Thoughts about Rikyū’s Death 」   

                            (Daniela Sadun


 利休の死と秀吉との関係については諸説あることが知られるが、筆者は日本のみならず欧米の文献を繙いて、それに新たな考察を加える。

 A. Maurizi, T. C. La Rocca, (eds), La figlia Occidentale di Edo. Scritti in memoria di Giuliana Stramigioli, Franco Angeli 2012, pp.124-35,より再録。




○ 一休とアルロット  Ikkyu and Arlotto  (米山 喜晟)


 とんち噺で有名な一休和尚と、ほとんど同時期に、イタリアでも、よく似た人物が存在していた。この、比較文学史上希有な偶然について探求する。


○ 『わがデジタル創世記』(福島勝彦著)

 ガリ板からタイプ、そしてワープロ、パソコンへと発展していった学校現場での印刷技術。50歳になって出会ったパソコンによって、身の回りの、音楽や写真、動画などがどのようにデジタル化されていったか。急速に世の中を変えてしまった「デジタル技術」の変遷を身をもって体験した世代の物語。

    (本になりました)

  

○ 『謎ときマルコ・ポーロ  Solving the Mysteries of Marco Polo』(高田 英樹)(図版を増やすなど、CD-ROM版を一部改訂しています)


「はじめに(改訂版) 〜 「懸棺(改訂版)   〜 「三国志(改訂版) 〜 「安順橋(改訂版) 〜 「盧溝橋(改訂版) 〜 「三年統治とイタリア人家族(改訂版) 〜  「順済橋(改訂版) 〜 

「磁器(改訂版)


 『東方見聞録』で有名なマルコ・ポーロ。実は、謎の多い人物である。

 その書はだれが書いたのか? 本当に東方に旅したのか? そもそも、実在の人物なのか? 

 残された数多くの「写本」から、代表的な7つの版を読み比べ、その謎に迫っていく。



○『ディーノ・ブッツァーティ短編選  Selected Short Stories of Dino Buzzati 


 ・『コロンブレ』      『小さな夜の話』 (ディーノ・ブッツァーティ、亀井 邦彦訳)


 ・ 『一滴の雫』      『人間の偉大さ』 (ディーノ・ブッツァーティ、ブッツァーティ読書会訳)


【原作者紹介】

 ディーノ・ブッツァーティ(1906~1972): 20世紀イタリア文学を代表する作家のひとり。幻想的、不条理な作風から「イタリアのカフカ」と称されたこともあるが、短編小説の名手としても有名である。



○ イル・ミリオーネ・マルコ・ポーロ写本の伝統(1)  The Tradition of the Manuscriptsof  Marco Polo  1

(ルイジ・フォスコロ・ベネデット、 高田英樹訳)

   (1)    (2)


 マルコ・ポーロ写本についての最高の基本文献。諸版の異なりは、従来オリジナル(1298年)に後に誰かが書き加えたため、とされていたのを、最初全て含んでいたオリジナルが後に要約・省略されたため、との新たな説を立てた。


○ メリアドゥス(抄) 

        (ルスティケッロ・ダ・ピーサ 高田英樹訳)



同人CD-ROM『百万遍』創刊号・編集後記


 大学時代の先輩・高田英樹氏から、唐突に「同人誌」発行のプランを打ち明けられたのは、昨年(2017)11月のことであった。すでに齢古希を2年も過ぎているものにとって、それは耳を疑う話でしかなかったが、後日、高田氏から詳細な計画を聴いて、協力してみようという気になった。その時に見せてもらった「趣意書」には、「投稿者はだれでもよい。一切条件なし」「原稿は何でもよい。小説、詩、エッセイ、日記、論文、翻訳、研究ノート、写真、スケッチなど、一切種類は問わない。かつて発表した既存のものでも、書き下ろしでもよい」とあった。要するに「なんでもあり」の「ユルイ」スタイルにホッと安堵したのかもしれない。

 賛同した私が最初に提案したのは、雑誌をデジタル化することだった。私自身、半世紀ほど前に、二度、「同人誌」に加わったことがあったが、当時、タイプ印刷の、気の利いた雑誌をつくるにはお金がかかり、ページ数や発行回数が制約されるなど、苦労が多かった。そのため、のちに、ワープロやパソコンが登場した時、ああ、あの時にこんなものがあればなあ、と切歯扼腕したものだった。

 その点については、高田氏も同意見で、デジタルならば、極く安価に同人誌が発行できるという見通しがあったからこその構想であった。ただ、高田氏は、ウェブ・ページをつくって、インターネットに流すという私の提案に対して、誰が読んでいるのか分からないのは手応えがない、と反対、CD-ROMに焼いて、配布することになった。

 デジタル化された原稿を、CD-ROMに焼く作業は、相対的にデジタルに詳しいということで、私が担当することになった。いろいろ考えてみたが、もっとも手軽にできそうなのは、「PDFファイル」という、広く普及している形式で、CD-ROMに記録する方法だった。WordやPagesなどのワープロ・ソフトや、iBooksAuthorという電子書籍作成ソフトからPDFファイルに変換した。

 原稿集めは、高田氏が担当した。10年余のイタリア生活、日本国内でも、大学の日本語学科で多数の外国人に日本語を教えるという職歴を持つ高田氏の人脈は広く、イタリア語、中国語の原稿も加わるという、異色の雑誌となった。 

 ライフワークの「マルコ・ポーロ研究」に燃える高田氏の原稿が、いうまでもなく、この雑誌の推進力だが、そんな学術論文以外にも、まさに「雑」誌というにふさわしい、いろいろな読み物も入っている。気に入ったものを読んで楽しんでいただければと思う。

 なお、この同人誌は「年2回」発行を目指している。だから、次号は、来年(2019)2月頃の予定。

(2018.7 福島記)



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