百万遍 Hyaku-man-ben 第9号
2022年9月5日発行
内容紹介 & 執筆者(自己)紹介
Traces of the Montaperti Phenomenon in The Divine Comedy
戦いに敗れたことが、結果的に、その後の驚異的な経済的・文化的発展をもたらしたという「モンタペルティ現象」を探求してきたシリーズの最終回。今号では、原点に立ち戻って、中世フィレンツェで発生した「モンタペルティ現象」を詳しく検討する。使用する資料はあのダンテの『神曲』。この近代の扉を開いたと言われる世界的に有名な古典作品の中で、同時代のフィレンツェ、およびフィレンツェ人はどのように描かれているか、そこに「モンタペルティ現象」の痕跡は見つけられるか、じっくりと探索されている。
【執筆者自己紹介】
米山 喜晟(よねやま よしあき): 1937年奈良県生まれ。勤務先は、峰山高校,京大(非正規職員)、京都産大、大阪外大、桃山学院大などを転々とした。研究テーマは、フィレンツェ史、イタリア・ノヴェッラ史、ムラトーリ研究、主著は『敗戦が中世フィレンツェを変えた』。
○ 9号誌休載の辨
An Explanation for the Suspension of My Contribution in the Current Issue of Hyaku-man-ben
(田淵 晉也)
This Side of the Lethe 3: Hinode Bridge in Iwami
(岩田 強)
【執筆者による内容紹介】
今回は『語り手は信用できるか』―「森のなかのリンチ」は休載することにした。フォレスト・カーターに関する最初の研究書 Confederate Ghost Dancer: Asa Carter and the Dream of a White America『南軍のゴースト・ダンサー:エイサ・カーターと白いアメリカの夢』が来年3月に公刊されるという予告がアマゾンに出たからだ。死後40年以上が経っているにもかかわらず、フォレスト・カーターの実像はいまだに謎につつまれている。上記の本を読んだうえで論考を進めたい。著者は Dan Carter。以前、’The Transformation of a Klansman’ というかれのフォレスト・カーター論を読んで啓発されたことがある。
「此岸の光景 その3:石州日の出橋」は筆者の祖父が架けた橋を調べに石見地方をめぐったセンチメンタル・ジャーニーの紀行文。こんな文章を書く気になるとは、此岸を通り越して彼岸に近づいたかな。
【執筆者略歴】
岩田 強(いわた つとむ): 1944年東京生まれ。京都大学でアメリカ文学 (主として19世紀小説)を学び、和歌山大学、山梨医科大学、京都光華女子大学で教鞭をとる。著書『文豪ホーソンと近親相姦』(愛育社)、訳書 カイ・エリクソン『あぶれピューリタン』(現代人文社)(村上直之氏との共訳)
○ PER UN FILO DI SETA 〜 1867, l’Italia arriva in Giappone. 「絹の糸を求めて~1867年 イタリア 日本に到達す」
In Search of Silk Thread: Italy Arrived at Japan in 1867
(Teresa Ciapparoni La Rocca)
1867年、絹糸を求めて日本に来航した一隻の船から始まったイタリアと日本の通商と友好親善を紹介するテレーザ・ラ・ロッカ氏の小冊子から、イタリア語と日本語の部分を転載する。
【執筆者紹介】
Teresa Ciapparoni La Rocca テレサ・チャッパローニ・ラ・ロッカ: 元ローマ大学・文哲学部・日本学科専任講師。近世日伊関係史を中心に研究。2013年旭日小綬章。
○ 正史を彷徨う
Wandering through the Authorized Histories
Chapter 20 Spouses of Emperors and Their Children until Emperor Keitai
○ 石仏あれこれ
Visiting Some Stone Buddhist Images
シリーズA 石仏を訪ねる
(森 隆一)
【執筆者による内容紹介】
「正史を彷徨う」20章では、日本書紀と古事記の各天皇紀に書かれている后妃とその子女を、とりあえず、系図にしてみた。これは、「日本神話・神社まとめ」というサイトに掲載されている系図を手本に、記紀に書かれている他の情報を付け加えたものである。また、このサイトの幾つかの記事を引用した。このような記事を書きたかったのだが出来なかった。
古代史のほうが膠着状態に陥りつつあることから、石仏写真について考えてみた。問題は写真をどう処理かということで、これまではフィルム・スキャンしなければ出来ないと思っていた。8号の原稿を提出した後に、引き伸ばした写真を解像度600程度でスキャンしたもので、手札写真までは、本誌の原稿としては充分であることがわかった。これで、2000年頃までポジ・フィルムで撮った風景写真以外は使えるようになり、「石仏あれこれ」として投稿することにした。
構成は、
シリーズA 石仏を訪ねる
シリーズB 石仏を考える
とする予定である。Aでは石仏写真を、Bでは石仏と関連する仏教に関して調べたことを修正する。
今回は、写真を準備することができた
はじめに
A1 百萬遍・知恩寺 1978
A2 坂本・慈眼堂Ⅰ 1976
を投稿することにした。
【執筆者自己紹介】
森 隆一 (もり たかかず) : 1945年愛知県にて生まれる。1968年京都大学理学部数学科卒業。1970年同大学院理学研究科数学専攻終了。京都産業大学に勤務し、2015年定年退職(免職)。数学では、初めは確率論を、後半は計算可能性解析を研究してきた。
○ 北海道2 School Excursions to Hokkaido 2
(福島 勝彦)
在職10年を超えるようになり、これまでの中高一貫の6年間を受け持つスタイルから、高校を中心に担当するスタイルに切り替えた。その結果、高校2年での「修学旅行」について行く回数は飛躍的に増えたが、学年内での自分の立場が微妙に変わってきて、教師間のさまざまな人間模様も目に入るようになってきた…
【執筆者自己紹介】
福島 勝彦(ふくしま かつひこ):1945年8月生まれ。大阪市出身。ちょうど戦争が終わったときに生まれ、以後77年間、「戦後」の時代とともに生きてきた。京都大学文学部卒業。そのあと、中高一貫の私立男子校に39年間勤務。百万遍・創刊号に掲載した『わがデジタル創世記』を、加筆・修正のうえ、2019年、文芸社から刊行した。また、作品ホームページ「二十世紀作品集」を現在開設中。http://happi-land.com/ こちらもご覧ください。
○ お前、俺をナメてるのか?! ~Are you licking me?
(田川 剛)
「内容紹介」「執筆者自己紹介」に当たる内容は、本文中にあります。
旅行記(イタリア語原文) The Original Text
(高田 英樹)
15世紀前半、ポーロに続いて25年(1419~44)の長きにわたって東方に旅したもう一人のヴェネツィア商人ニコロ・ディ・コンティ(1395~1469)旅行記の全訳。テキストは、教皇エウゲニウス4世の命によりその秘書官ポッジォ・ブラッチォリーニに語ったものがポルトガル語訳され、それからラムージォがイタリア語に訳して『航海と旅行』に収めたものである。
【執筆者自己紹介】
高田 英樹(たかた ひでき): 1941年兵庫県丹波生まれ。京都・ピーサでイタリア語を学ぶ。ローマ・京都・松山・大阪で留学生に日本語を教える。今宝塚・丹波で再びイタリア語を勉強している。
Selected Short Stories of Dino Buzzati 8
(ディーノ・ブッツァーティ、ブッツァーティ読書会・稲垣豊典訳)
【原作者紹介】
ディーノ・ブッツァーティ(1906~1972): 20世紀イタリア文学を代表する作家のひとり。幻想的、不条理な作風から「イタリアのカフカ」と称されたこともあるが、短編小説の名手としても有名である。
同人CD-ROM『百万遍』第9号・編集後記
思いも寄らぬことが起こるものである。元首相が街頭演説中に狙撃されて死亡した。
「暗殺」と云えば、「右」の専売特許と思っていたので、「右」の勢力のシンボルと見做されていた元首相がまさか狙われるとは、警備の警察も、元首相本人も思ってもいなかったことだろう。そんなスキを衝くように暗殺者は背後に忍び寄り、鉄パイプに火薬を詰めた手づくり銃の引き金を引いた。周囲に大勢いたはずのボディーガードにはかすり傷ひとつ与えず、元首相ひとりのみを一発でほぼ即死に至らしめたのは「奇跡」としか云いようがない。
驚くべきことに犯人は、「政治テロ」ではなく「個人的な恨み」が動機だと供述したという。即ち、とあるカルト教団に心酔した母親が全財産を教団に献金したために一家は破産、以後、自分たち家族の未来は無茶苦茶になってしまった。そんな教団を日本でいちばん保護しているのが元首相だと知って殺そうと決意したというのである。
それはあまりにもお門違いで、短絡的ではないかと思われたが、その後、過去に「霊感商法」なるものが社会問題となった(そして、それは今も続いているといわれる)その教団と多数の与党政治家たちとの深い関係がクローズアップされてきた。そして、その中心には元首相がいたことも明らかになって、大きな政治問題となっている。
さらには、一向に終息しない「コロナ禍」と「ウクライナ戦争」。そして、ひたひたと近づいていると云われる「世界大恐慌」。
世の中はますます不穏な空気に包まれているが、「同人誌・百万遍」は、平静を失わず、着々と、年2回の歩みを続けている。今号から、新しい仲間も加わった。「研究職」や「教育職」出身者がほとんどの中、「実業」の世界を知る貴重な人材で、今後の展開が大いに楽しみである。
(2022.8 福島記)