第5号・内容紹介


百万遍 Hyaku-man-ben 第5号 

2020年8月23日発行



    




内容紹介 & 執筆者(自己)紹介



○ 潮流に乗って ~第二次世界大戦後のモンタペルティ現象~

Drifting with the Tide:  the Montaperti  Phenomenon after the Second World War


 第一章 モンタペルティ現象として見た日独伊三国の「経済の奇跡」

 第二章 戦後世界のモンタペルティ現象を支えた基本的条件

 結ぴに代えて:モンタペルティ現象が戦後世界にもたらしたこと


(米山 喜晟)


 モンタペルティの敗戦後、驚異的な経済的・文化的発展を成し遂げた中世フィレンツェ。そのような例が、近い時代にも存在するのではないか。この稿では、それに類似した歴史的事象として、第二次世界大戦の敗戦国の日本、ドイツ、イタリアの「戦後」に発生した「モンタペルティ現象」を詳しく考察している。

 

【執筆者自己紹介】

 米山 喜晟(よねやま  よしあき): 1937年奈良県生まれ。勤務先は、峰山高校,京大(非正規職員)、京都産大、大阪外大、桃山学院大などを転々とした。研究テーマは、フィレンツェ史、イタリア・ノヴェッラ史、ムラトーリ研究、主著は『敗戦が中世フィレンツェを変えた』。




○ 「’60年代日本の芸術アヴァンギャルド(3)』

The Avant-garde of Arts in Japan in the 1960s 3

  第2章  「デモ・ゲバ」風俗のなかの「反芸術」

   4) ’60年代日本の「反芸術」(その2)

     ① 評論家の「反芸術」

〜東野芳明の「反芸術」とそれをめぐって  

            Part 1 〜 Part 2 

      

     ②  芸術作家の「反芸術」

          Part 3 〜 Part 4


                            (田淵 晉也)                                                                       【執筆者による内容紹介】 

 わたしの関心は、いぜんにも書いたように、’60年代日本の芸術アヴァンギャルドにあるというよりもむしろ、’60年代日本を、文学・芸術から再見することにある。というのは、1945年の敗戦によって、あたかも白紙還元されたようにみえたものから、ふたたびあらたなものが形成されはじめたのが、戦後15年の’60年代であったように、いまとなってはおもえるからである。そして、また、その形成されはじめたものが、いまおもいかえすとき、かならずしも、望ましいものではなかったということである。そのことは、昨今のコロナ禍における、日本政府や大阪府のえらい人の「発表」をきくにつけ、国民学校低学年できいた大本営・政府発表をおもいだせることからも、その感をふかめている。

 そのような意味をもつ、わが青春をみきわめることが、はたしてできるか、できないかはわきにおいて、自分にたいする自分の義務のようにおもっている。

 というようなことで、書き綴っているわけであるが、いっこうに核心に近づけぬもとかしさを感じる。そのもどかしさが、とりとめないこのような文章になっている。したがって、当初の主題「『風流夢譚』と中央公論事件」は、第3章であつかうつもりでおり、すでに資料はすべて用意しているのだが、次回はまだ、第2章の最終節「’60年代日本の『反芸術』」にとどまるであろう。

 そして、そこでは、「読売アンデパンダン」展とハイレッド・センターの芸術運動、さらには、深沢七郎と心情思想的にはひとつの絆でむすばれており、また、’60年代日本のアヴァンギャルドにおいて、年齢・経歴的にも対称点の裏表の関係にあった、赤瀬川原平について記したうえで、第3章へむかいたいとおもっている。

 しかし、今回書いたものは、ぜんたいとしてどのような位置にあるかわかりにくいものになっているから、文頭に、『百万遍』にこれまで書いたところの章分けを掲げておいた。


【執筆者自己紹介】

 田淵 晉也(たぶち しんや): 1936年岡山で生まれる。京都で学生時代をすごす。関心をもつ研究領域はシュルレアリスムを中心とした文学・芸術文化である。著書に『「シュルレアリスム運動体」系の成立と理論』、『現代芸術は難しくない ~ 豊かさの芸術から「場」の芸術へ』、共著書に『ダダ・シュルレアリスムを学ぶ人のために』、翻訳にポール・ラファルグ『怠ける権利』、アンドレ・ブルトン『シュルレアリスムの政治的位置』がある。





○ 此岸の光景 ~ 放課後のながくたのしい夕べ 

This Side of the Lethe 

(岩田 強)


【執筆者による内容紹介】 

 『語り手は信用できるか』は今回休載することにした。休載の理由は、身も蓋もない、原稿が間にあわなかったからである。フォレスト・カーターについて書くのはこれが初めてで、調べたり、読んだりしなければならないことが予想外に多かった。次号に間に合うようにがんばりたい。

 その埋め合わせに(?)、小文を載せることにした。

 総題『此岸の光景』について一言。此岸は彼岸の反対側、三途の川のこちら岸の謂いである。迂闊なボクも古希をこえて、生に果てがあることを実感するようになった。暗い突堤をよろよろ歩いていって、ぽとりと無の海に転げ落ちるイメージだ。『此岸の光景』では、そういう老いぼれの眼に映った人の世の姿、これまでに遭遇し感銘を受けた人びとの死にざまを、ぽつりぽつり綴っていきたい。形式や長短にはとらわれない。翻訳、随筆、創作、気が向くままになんでもやってみたい。今回の「放課後のながくたのしい夕べ」は、翻訳を核にした随想、といったところか。


【執筆者略歴】

 岩田 強(いわた  つとむ): 1944年東京生まれ。京都大学でアメリカ文学(主として19世紀小説)を学び、和歌山大学、山梨医科大学、京都光華女子大学で教鞭をとる。著書『文豪ホーソンと近親相姦』(愛育社)、訳書 カイ・エリクソン『あぶれピューリタン』(現代人文社)(村上直之氏との共訳)




○ 正史を彷徨う Part Ⅳ    &    Part Ⅴ

Wandering through the Authorized Histories  4 ~ 5

(森 隆一)


    Part Ⅳ 

        9. 晋書の時代   (倭の東遷I)

        10. 宋書の時代   (倭の五王)


    Part Ⅴ

        11. 神武東征   (神武天皇紀)

        12. 古代の海岸線   (縄文海進)


【執筆者による内容紹介】

 三国志に書かれた時代以降の倭、すなわち、北九州征服以後の倭について考えていく。この時代は、謎の四世紀・謎の五世紀とよばれている。正史では、前者は晋書、後者は宋書の時代にほぼ対応する。宋書では、よく知られている倭の五王の朝貢が書かれている。一方、日本書紀では倭の五王については、全く触れられていない。


 Part IVでは、崇神天皇紀から神功皇后紀までを見ていく。二韓+倭説からは、神功皇后(台与・壱与)直後はその直前に書かれることになるに基づくものである。このうちで、内容が豊富なのは、神功皇后紀と景行天皇紀である。前者は3章で部分的に扱った。後者には、日本神話でよく知られている日本武尊の話が書かれている。また、仲哀天皇紀では、日本武尊第二子也 母皇后曰兩道入姫命 と書かれ、これからは、日本武尊は天皇であったことになる。また、日本武尊と仲哀天皇は神の怒りにより死んだとされている。これらから、倭王朝で王位争いが起きたのではないか推測される。日本武尊の東征は、征服先が日本書紀編纂時の倭国のフロンティアに置き替えられたと考え、中国・四国地方に置き替えてみた。これにより、神武天皇紀に書かれていない地方をカバーできる。

  Part Vでは、神武天皇紀を見ていく。全文は、15歳で皇太子となり、その後、吾平津媛を妃とし、手研耳命を生んだという77文字の簡単なものである。初代天皇の前文としては貧弱である。また、初代天皇が皇太子になるというのもおかしい話ともいえる。

 45歳で東征の宣言をし、50歳までの6年間で東征を終了し、52歳で即位した。ここでは、神武天皇紀に書かれた東征(神武東征)の記事のうち、経由地を主に見ていく。この過程で、河内湖と奈良湖の存在と大和川の付け替えを知り、幾つかの疑問が解消した。他の地域の古代海水面を調べているうちに、Flood Maps というサイトを見つけた。ここでは、海水面を上下させたときの海岸線の変化をシミュレートできる。河内湖の推測図と比較した結果、海面を4m挙げたときのものが似た海岸線が得られた。面白いので、幾つかの場所を調べた。この結果、遠賀川河口部では、筑紫湖と名付けた、河内湖と似た湖水面が現れた。女王国への行程に現れる、投馬国をこの辺り、邪馬台国は遠賀川上流とすることを検討した。三国志の状況は、河口部の島に根拠地を造り、河を遡って征服するという、神武東征における戦略と同じものである。

 倭の東遷の大筋としてはかなりのところに到達したと思っているが、地名の比定や攻略の時系列的配置などは、考えるたびに細部が変わる状態である。

 正史での次にかかれている倭の記事は、隋の開皇二十年600となる。本稿の立場からは、六世紀も謎の世紀ともいえるが、三国史記の百済・新羅の記事と正史との対応が付く時代に入り、これらの記事を用いられる。しかし、三国史記に関しては Part III で考察した修正王統の検証も必要で、これには、かなりの時間を要する。

 当面は、日本書紀をもう少し(継体天皇紀まで)読み進むことにする。


【執筆者自己紹介】

 森 隆一 (もり たかかず) :  1945年愛知県にて生まれる。1968年京都大学理学部数学科卒業。1970年同大学院理学研究科数学専攻修了。京都産業大学に勤務し、2015年定年退職。数学では、初めは確率論を、後半は計算可能性解析を研究してきた。




○ 私のビートルズ    My Beatles 

    (1) 五〇年後の断想   Fragmentary Thoughts after Fifty Years

        (2) アナログレコード最後の日   The Day I Parted with the Beatles’ 

Analog Disks  

        (3) 幻想の世界制覇   The Illusionary Conquest of the World                       

 (福島 勝彦)


 ビートルズについて、これまでに書いた2編に加えて、このたび、新しい文章を書き下ろした。趣向によって、執筆が新しい順に並べてあるが、どの文章から読んでもらってもかまわない。


【執筆者自己紹介】

 福島 勝彦(ふくしま  かつひこ)1945年8月生まれ。大阪市出身。ちょうど戦争が終わったときに生まれ、以後75年、「戦後」の時代とともに生きてきた。京都大学文学部卒業。そのあと、中高一貫の私立男子校に39年間勤務。百万遍・創刊号に掲載した『わがデジタル創世記』を、加筆・修正のうえ、昨年、文芸社から刊行した。また、作品ホームページ「二十世紀作品集」を現在開設中。 http://happi-land.com/




○ 謎ときマルコ・ポーロ(5)

Solving the Mysteries of Marco Polo 5

    

            18. バイアン・チンクサン   

        19-1. 西湖・王宮・ファクフル王(1)   

    19-2. 西湖・王宮・ファクフル王(2)     

        19-3.   西湖・王宮・ファクフル王(3)

(高田 英樹)


 『東方見聞録』で有名なマルコ・ポーロ。実は、謎の多い人物である。

 その書はだれが書いたのか? 本当に東方に旅したのか? そもそも、実在の人物なのか? 

 残された数多くの「写本」から、代表的な7つの版を読み比べ、その謎に迫っていく。


【執筆者自己紹介】

 高田 英樹(たかた ひでき): 1941年兵庫県丹波生まれ。京都・ピーサでイタリア語を学ぶ。ローマ・京都・松山・大阪で留学生に日本語を教える。今宝塚・丹波で再びイタリア語を勉強している。





○ ディーノ・ブッツァーティ短編選(5)

Selected Short Stories of Dino Buzzati  5

   

  『七人の使者』 Seven Messengers


(ディーノ・ブッツァーティ、ブッツァーティ読書会・稲垣豊典訳)


【原作者紹介】

 ディーノ・ブッツァーティ(1906~1972): 20世紀イタリア文学を代表する作家のひとり。幻想的、不条理な作風から「イタリアのカフカ」と称されたこともあるが、短編小説の名手としても有名である。


【訳者自己紹介】

 稲垣 豊典(いながき とよのり): 1948年(昭和23年)生まれ。故堺屋太一氏の名付けた“団塊の世代”の一人。関西学院大学法学部卒。政府系金融機関に勤務した後、家庭裁判所に調停委員として勤務、70歳で定年退職。現在は、天体望遠鏡(入門者用)を購入するなど、宇宙に興味津々といったところです。

 



○ マルコ・ポーロ・生涯と伝記(2)

The Life and Biographies of Marco Polo 2

    

    11. はじめに        12. 中世ピーサ年代記1      

  13. 中世ピーサ年代記2       14. ルスティケッロ・ダ・ピーサ 

    15. 中世ヴェネツィア年代記      16. 年次考         

(高田 英樹)


 マルコ・ポーロの生涯や伝記についてこれまでに書いたり訳したりしたものを集めたもの。今号では、1997年以降に発表した論文を再録した。いずれもほぼ初出どおりであるが、若干ながら加筆・訂正・削除等を施した。図版・写真はすべて今回新たに加えたものである。




 

同人CD-ROM『百万遍』第5号・編集後記


 今年に入って、「新型コロナウィルス」の襲来という思わぬ事態が発生、世界中に蔓延して、これまでの世の中のあり方を一変させてしまった。「緊急事態宣言」が発令されて、不要不急の外出は自粛するように求められ、もはや決まった職業を持たない執筆者の多くは、文字通り、自宅に引きこもる生活を強いられることになった。そのためかどうか、今号は原稿の集まりが早く、また、編集作業も捗って、9月発行の予定が少し前倒しされることとなった。コロナの禍がもたらした、数少ない「福」といえようか。

(2020.8 福島記)


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